信念なし、熱烈な支持者もいないが「信用できない」わけではない...イギリスのキア・スターマー新首相は何者?

AI要約

イギリスの新首相、キア・スターマーについての謎めいた魅力と、彼の非独断的な性格が政治シーンにどのような影響を及ぼすかについて探る。

過去の強烈な主張を持つ政治家たちの破滅を受けて、スターマーの穏やかな姿勢がプラスに働く可能性がある。

彼がカリスマを欠くとされる一方で、「ノー・ドラマ・スターマー」というニックネームも持つ背景を考察する。

信念なし、熱烈な支持者もいないが「信用できない」わけではない...イギリスのキア・スターマー新首相は何者?

「キア・スターマーって何者?」とは、一筋縄ではいかない質問だ。イギリス人にとって、スターマーは「新首相」というだけでなく、なじみのある存在でもある。【コリン・ジョイス(本誌コラムニスト)】

4年前から労働党党首としてニュースでよく見ていたし、そのかなり前から党の大物だった。弁護士であり検察局長を務めたといった経歴の詳細も分かっている。

だがどこか謎めいた部分がある。彼がいったい何に突き動かされているのか、見極めるのは容易でない。懸命に取り組むものは何なのだろうと突っ込んだインタビューをしても、マニフェストに示した具体的な事項について淡々と語りがち。政治集会や演説の場なら心の底から訴えるかと思いきや、その姿はさながらチームで作成したパワーポイント資料のプレゼン役、といった印象だ。

これだからスターマーは、かの定義困難な「カリスマ」という資質を欠く。確固とした政治的信念に基づいて行動する人物の姿が見えてこない。その意味で彼は、同輩たちとは異なっている。

■強烈な主張の政治家は次々破滅した

例えば熱烈な社会主義者だった前任の労働党党首ジェレミー・コービン。短命に終わった保守党のトラス元首相は、経済成長のイデオロギーが明確で、現実にぶち当たった。同じく保守党のジョンソン元首相は、EU懐疑と熱狂を伝統的な保守党的価値観と合体させて広い支持を集めた(人格的欠陥のせいで失脚するまでは)。メイ元首相ですら、ブレグジット推進の過程で倒れたために実行こそかなわなかったものの、政治的理想を掲げていた。

当面、スターマーの「非・独断的」な性格はプラスに働くかもしれない。近年はブレグジットを筆頭に、大規模で大胆な政策が多くの対立や分裂の原因となってきた。そしてスターマーより強烈に主張する政治家たちは、明らかに破滅していった。そう考えると「ノー・ドラマ(ドラマなき)スターマー」とのニックネームも、蔑称とは言えないのだ。