気候変動で「溶けている」とされるアラスカの氷河、見に行ったらそこは石油王国だった

AI要約

氷河の崩落と気候変動の関係について、実際の現象を説明。

アラスカでのクルーズでの自然観察や、気候変動に触れられない事情を紹介。

米国の政治的な背景から、気候変動問題が党派対立の焦点となっている現状を示唆。

 (杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

 暑い夏に涼しい話題をひとつ。

 「気候危機」のテレビ報道でお決まりのシーンは、氷河が割れて海にドーンと崩れていく映像だ。私は気候変動関連の研究を30年もやってきたが、恥ずかしながらナマで見たことがなかったので、はるばるアラスカまで行ってきた。

 実際のところ、氷河が崩れ落ちるのは、氷河が「川」のように流れているからであって、気候変動とは何の関係もない。

 すなわち氷河とは雪が積もり、自らの重みで押しつぶされて氷となったものが、その自重で流れ落ちているものだ。それが海や川などの岸まで達すると、割れ目が入り、やがて後続の氷に押されて崩落する。

 なお川のように流れているといっても、1日に動く距離はわずかなので、目に見えて流れているわけではない。それでも、耳を澄ませていると、遠くから「ビシッ」「バリッ」といった音が散発的に聞こえてくる。氷が割れたり、崩れたりする音だ。

 そして時には、見えるところで氷が崩れ落ちる。とは言っても、筆者が見ることができたのは子供が土手遊びで起こすぐらいのごく小規模な崩落であった。テレビで見るような大規模な崩落は、おそらくそう簡単に遭遇はできないのだろう。テレビではスタッフが長時間滞在して撮影し、見せ場だけを見せるから、ドラマチックな映像が放映される。けれども私は全く見ることはなかった。

 それでも、少しでも崩落があると、観光客は大騒ぎして喜んでいた。

 このクルーズでは野生動物を見ることもできる。

■ ガイドの説明にも気候変動問題の党派対立の影

 ラッコやアシカの群れ、米国の国鳥であるハクトウワシ、カモメの大群集などである。そして一番人気は何と言ってもクジラである。

 「クジラがいます!」とアナウンスがあると、それまで座っておしゃべりしていた人々が、カメラをつかんで一斉に大急ぎで甲板に出てゆく。

 クジラを見るといっても、これまたテレビで見るようなジャンプとかを見ることはなかった。呼吸のときに噴き上げている海水が見え、呼吸の時に背中が見え、潜水の前にしっぽが見えるという具合で、クジラを丸ごと見ることは無い。けれどもこれまたみな大喜びで歓声を上げ、一生懸命写真を撮って大いに盛り上がっていた。

 移動中はバスも電車もクルーズも、ひっきりなしにガイドが話をしてくれる。それも録音などではなく生放送だ。

 気候変動について何か言うかなと思っていたが、ほとんど触れることはない。ただ一度、クルーズの途中に国立公園職員のネイチャーガイドが「気候が変化して、氷河が後退しています」「あまり政治的になりたくありませんが、この素晴らしい自然を見て、どのようなことができるか、帰ってから考えてみてください」とやんわり言った程度だった。

 この「政治的になりたくありませんが」という前置きがあったのは、米国の事情をよく表していると思った。気候変動問題は、米国では、国を分断する党派問題の一つなのだ。

 民主党は気候危機説を唱え、共和党は気候危機というのは大袈裟だと考えている。お客さんは全米から来ているので、おそらくどちらの党派の人もいるだろう。あまり気候変動と言い立てると、お客さんの半分を怒らせることになりかねないから、避けた方が賢明そうだ。