韓国大統領室の監視・盗聴が発覚した米国、韓国の諜報活動だけ起訴した理由は

AI要約

韓国系米国人の北朝鮮専門家がFARA違反で起訴され、韓国政府との関係が問題視されている。

国情院の違法な情報活動が露見し、米国の監察や問責が検討されている状況。

米国政府が韓国の情報活動を厳しく取り締まる意図が11月の大統領選に関係している可能性がある。

韓国大統領室の監視・盗聴が発覚した米国、韓国の諜報活動だけ起訴した理由は

 米中央情報局(CIA)出身の韓国系米国人で、北朝鮮専門家のスミ・テリー米外交問題評議会(CFR)上席研究員が、外国代理人登録法(FARA)に則った申請をせずに韓国政府から金品を受け取り、韓国政府のために活動した疑いで、米連邦検察に起訴された。

 スミ・テリー上席研究員は米国人であり、米国の現行法に違反した疑いで米国の司法手続きが進められているため、韓国と米国政府はこの事件について公式の言及を避けている。米国務省のマシュー・ミラー報道官は17日(現地時間)の会見で、「韓国政府と協議したのか」という質問を受けると、「この問題については言及しない」とだけ答えた。チョ・ヒョンドン駐米大使もこの日の記者団の質問に「特に何も言うことはない」と答えた。韓国の情報機関である国家情報院(国情院)は事案が公開された直後、「外国代理人登録法での起訴報道について、韓米情報当局が緊密に連絡中」とだけ明らかにした。

 この事件をめぐる問題点は、米検察の起訴内容どおり国情院が1回に数百万ウォン分のプレゼントや違法なルートでの研究基金を提供したことが事実であれば、国情院の海外での情報活動の手法は適切だったのか▽機密性が命の国情院の海外情報活動が連邦捜査局(FBI)に発覚したことをどのようにみるべきか▽米国はなぜ今、韓国の情報活動を問題視したのか、そして韓米関係に及ぼす影響は何か、などだ。

 米検察は前日に公開した起訴状で、スミ・テリー上席研究員が2013年から最近まで、韓国政府から金品を提供され、韓国政府に情報などを提供したと主張した。各国の情報機関は、海外で国家の安全保障のための違法活動を秘密裏に遂行している。国情院の海外派遣要員は、世界50カ国あまりの拠点都市で、公使や参事官のような外交官の身分や商社員に偽装して活動している。彼らが行うことは情報収集と工作だ。各国の情報機関が外交で解決できない問題の対応を海外で秘密裏に遂行する現実を考慮すれば、国情院がスミ・テリー上席研究員から情報を得た行為を、米国の現行法に反する違法行為だとばかり非難するのは難しい。

 問題は、発覚してはならない国情院の活動が発覚したことだ。米検察の起訴状には、FBIが把握したスミ・テリー研究員と国情院の要員の対話内容と写真がそのまま掲載されている。大統領室高官は18日、龍山(ヨンサン)の大統領室で記者団に「国情院の要員が発覚したことについて、政府レベルでの監察や問責が進められているのか」という質問に、「監察や問責をするとなれば、文在寅(ムン・ジェイン)政権を監察したり問責しなければならない。良い指摘だ。検討してみる」と答えた。同関係者は「(国情院の要員が)写真に撮られたのは、いずれも文在寅政権下で起きたこと」だとし、「当時は文在寅政権下で、国情院から専門的な外部活動を行える要員をすべて追いだし、アマチュアのような人たちで埋めたため、このような話が出てきたようだ」と付け加えた。

 この主張とは異なり、スミ・テリー上席研究員の活動は朴槿恵(パク・クネ)政権期に始まり、昨年3月には尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領を称賛するワシントン・ポストのコラムを外交部の要請を受けて作成した。大統領室高官の主張のように今回の件を文在寅政権の責任だけにするのは難しい。

 米国内での外国の情報機関による違法と合法の境目の情報収集活動は昨日や今日のことでないが、米国はなぜ今、問題とみなしたのか。米検察によるスミ・テリー上席研究員の起訴は、11月の米国大統領選を前に、各国政府による民主党と共和党の大統領候補陣営を対象にした情報活動とロビー活動を制御しようとする意図が含まれているものとみることができる。情報機関出身の元政府高官はハンギョレに「11月の大統領選挙を控え、各国政府による米国内の情報活動とロビー活動をけん制するための事前警告を発信したモデルケースだと思われる」と述べた。

 スミ・テリー事件を担当する米ニューヨーク南部地検トップのダミアン・ウィリアムズ氏は、資料を通じて「公共政策に従事する人たちが自身の専門知識を外国政府に売ろうと思うときは、考え直して法を順守しなければならないという明確なメッセージを伝える必要がある」とする立場を明らかにした。

 問題は、多くの外国の情報機関活動のなかで、よりによって同盟国である韓国を標的にしたことだ。情報機関の元高官は「日本や中国に比べると韓国の情報活動は微々たる水準である現実を考慮すれば、『標的監視』である可能性は排除できない」と述べた。昨年4月に、米国の情報機関がソウル龍山の大統領室で盗聴・傍受などの情報活動を行っていたことが発覚したことに対する「報復性」の対応である可能性も排除できない。

 韓米間の「情報対立」をめぐる報復対応(推定)には先例がある。1996年9月24日、米海軍情報局に勤務していた韓国系米国人のロバート・キム氏が、北朝鮮潜水艇が江陵(カンヌン)に侵入したルートを駐米韓国大使館の海軍武官に教え、逮捕された。韓国は1997年4月、兵器購入を担当していた空軍中佐を、米国人の兵器仲介業者との協業を条件に軍事機密を流出した疑いで摘発し、米国人ら5人を処罰した。ロバート・キム事件から7カ月後に起きた米国人兵器仲介業者事件をめぐり、当時野党からは米国に対する報復対応だとする主張が出てきた。

 11月の米国大統領選を前に、米政府はもちろん朝鮮半島専門家らの緊密な意思疎通が切実に求められる状況において、スミ・テリー事件によって韓国の対米情報活動の大幅縮小は避けられなくなった。情報機関出身の元政府高官は「米国政府の関係者や専門家らが韓国側との接触を避けようとするだろう」とし、「スミ・テリー事件の悪影響は深刻だ」と述べた。

クォン・ヒョクチョル記者、イ・ジェフン先任記者、イ・スンジュン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )