自由主義経済の夢を裏切ったプーチンの同盟者、ただの官僚、あるいは脅されている? ロシアの戦時経済を支える「ルーブルの守護神」の中銀総裁とは何者か

AI要約

ロシアは西側諸国の制裁による経済崩壊を避け、戦時経済体制を構築して国民の生活水準を守っている。

ロシア中央銀行の総裁であるナビウリナは重要人物として、ロシア経済を安定させる功績を持ち、プーチン政権を支えている。

ナビウリナの行動力と知識により、ロシアは過去の制裁やウクライナ侵攻に対応し、経済の危機を最小限に抑えてきた。

自由主義経済の夢を裏切ったプーチンの同盟者、ただの官僚、あるいは脅されている? ロシアの戦時経済を支える「ルーブルの守護神」の中銀総裁とは何者か

西側諸国による制裁によってロシアの経済は崩壊し、すぐに戦争は終わるだろうという予想に反し、ロシアは戦時経済体制をすばやく組み立て、国民の生活水準の急速な悪化を防いでいるという。そのために力を尽くした重要人物として、ロシア中央銀行のエリビラ・ナビウリナが挙げられる。

プーチンの忠実な部下に見える彼女は、もともとはリベラル派出身で、ロシアを世界経済に統合することに力を尽くしてきた。いま、プーチンの野望を支える彼女は変節してしまったのか、あるいは「プーチン後」を見据えた使命感で職にとどまっているのか。謎多き人物の実像に英誌「1843マガジン」が迫る。

2023年8月14日、モスクワは不安に包まれていた。ウクライナのドローンが市内の建物を攻撃していた。数週間前に反乱軍を率いて首都へ向かったエフゲニー・プリゴジンはまだ野放しになっていた。だが、その暑い月曜日にモスクワ市民を最も不安にさせたのは、自国の通貨ルーブルの状態だった。

世界のエネルギー価格の動きに敏感に反応して通貨の価値が上がったり下がったりするのを見ることは、ロシアの国民的娯楽だった。ところが、1ドル100ルーブルよりもルーブル安になると、人々は心配しはじめた。これ以上は許容できないと考えるラインよりも下落するなか、険しい表情でパソコンの画面にかじりつく人もいた。中央銀行の「利口なプロ」たちはどこで何をしているんだ? とみんな不平を漏らした。

この数年、ロシア人たちに特に信頼されてきた「利口なプロ」が一人いる。 ロシア中央銀行の総裁を務める、60歳のエリビラ・ナビウリナだ。

眼鏡をかけ、まさにテクノクラートという風貌のナビウリナは、謙虚な物腰の裏にすさまじい知識と行動力を隠している。ロシアで最大級に影響力のあるリベラル派経済学者の愛弟子だった彼女はこの11年の任期中、それまで共産主義かカオスかのいずれかしか知らなかったロシアの経済を、オープンで、安定的で、ほどよく統制されたものに育ててきた。

ナビウリナはその存在だけで市場を落ち着かせられるような、世界でも数少ない中央銀行総裁の一人で、ウラジーミル・プーチン大統領の地政学的野望がもたらしたいくつもの事件にも手際よく対処してきた。

2014年 プーチンのクリミア併合を受けて 西側がロシアに広範囲の制裁を課すと、ナビウリナはその後のルーブル信用危機を最小限のダメージで切り抜けた。データに基づく決定、および圧力のなかでもリベラルな経済政策にこだわる姿勢は、当時のIMF総裁クリスティーヌ・ラガルドから「中央銀行をうまく歌わせることができた」と称賛された。

そのような賛辞は、2022年にロシアがウクライナに全面侵攻を開始すると聞かれなくなった。欧州におけるロシア産原油とガスの販売停止を含む、前例のない制裁がロシアに課せられた。

ナビウリナは、経済を守るために自分が留任しなければ部下たちが逮捕されてしまうのではないかと恐れているという噂だが、動機が何であれ、彼女はロシアの銀行が最初の衝撃を逃れる手助けをした(そしてしばらくすると、ロシアの巨大な石油・ガス企業は欧米以外の新規顧客を開拓するのが驚くほど上手いと判明したのである)。

プーチンを批判する人たちは、ナビウリナらテクノクラートも、その後続いたウクライナでの流血の共犯者だと考えている。