日本人母子襲撃だけではない…!いま中国社会で多発している「傷害事件」がもたらす「国民感情の悪化」と「憎悪の扇動」

AI要約

中国で日本人母子が襲撃された事件が起きた背景には、中国経済の急激な減速や所得格差の拡大がある。

コロナ禍や不動産バブル崩壊により、中小零細企業の倒産や若者の失業が増加し、社会不安が広がっている。

低所得層の経済困難や個人向けの救済措置の不足から、犯罪が増加している。

日本人母子襲撃だけではない…!いま中国社会で多発している「傷害事件」がもたらす「国民感情の悪化」と「憎悪の扇動」

さる6月24日、中国蘇州市で日本人母子が襲撃された事件があって、日本で大きく報道されている。一般的に日本人が抱く中国の印象は治安がそれほど悪くないと思われている。だがなぜこのような事件が起きたのだろうか。

とくに、この事件で注目されているのは日本人母子が襲撃されたとき、犯人を制止しようとした中国人女性が刺され死亡したことだった。

事件が発生してから、中国政府はこの事件が偶発的なものとのコメントを発表した。実は、同じ6月に、吉林省の公園でアメリカ人教員4人が襲撃され、負傷する事件が起きた。わずか1か月のうち、外国人が襲撃された事件が2回も起きた。「治安が悪くない」と思われている中国で何が起きているのだろうか。

振り返れば、中国経済が高度成長期をピークアウトしたのは上海万博が開かれた2010年ごろだったとみられている。習近平政権が正式に発足したのは2013年3月だった。それ以降、中国経済は徐々に減速したが、とくに2020年からの3年間、中国経済はマクロ経済統計以上に落ち込んでしまった。たとえば、中国政府の発表では、2023年、中国経済は5.2%成長したといわれているが、アメリカのラジウムグループの検証によると、実際は1.5%程度しか成長しなかったといわれている。

中国経済が急減速した背景に、3年間のコロナ禍に実施されたゼロコロナ政策によって数百万社の中小零細企業が倒産し、若者を中心に雇用が悪化したことがある。失業率が急上昇したため、家計の消費性向が低下し、景気が一段と減速した。

実は、中国は所得格差の大きい国である。経済が上り坂にあるとき、所得格差が大きくても、社会不安などの副作用が出てきにくい。なぜならば、経済成長が続く局面において、低所得層の可処分所得は高所得層に遥かに及ばないが、それでもいくらか増えるためである。しかし、景気が急減速すると、低所得層を中心に生活が困窮してしまうため、犯罪が多発するなど社会不安が深刻化しやすい。

とくにコロナ禍と重なって、中国では、不動産バブルが崩壊した。住宅ローンや自動車ローンを抱える若者は失業した場合、社会で孤立し、犯罪に走りやすい。普通であれば、失業して、住宅ローンを返済できなくなっても、自己責任である。しかし、中国で不動産バブルが崩壊して、デベロッパーはマンションの建設を途中で中止してしまったケースが増えている。これらの建設途中のマンションを買った個人は物件の引き渡しが行われていないが、住宅ローンがすでに実行されてしまったことが多い。

すなわち、マイホームに入居できる見込みがないなかで、ローンの返済を迫られている。さらに、不運な人の場合、失業も重なれば、途方に暮れてしまう。このような個人に対する救済措置が講じられていないため、犯罪が多発してしまう。