ベンチャーを大きく育てるしくみを作らないと、日本はマジつぶれる!

AI要約

日本のブレインテック分野における遅れと、技術的、人材、資金的な課題について取り上げる。

日本の現状の問題を語る中で、80年代の日本の台頭とその後の低迷に触れる。

アメリカの経済発展とベンチャー企業の台頭が日本の経済構造に影響を与えてきたことを考察する。

ベンチャーを大きく育てるしくみを作らないと、日本はマジつぶれる!

前回の記事で、イーロン・マスク率いるニューラリンク社をとりあげ、世界のブレインテック(脳科学を活用したテクノロジー)の動向と、この分野における日本の致命的な遅れについて紹介した。

しかし、このブレインテックを現実のモノとする際に、存在するのは技術的な障壁だけではない。人材、資金の問題も大きな壁としてそこに立ちはだかる。

世界のトップを走るアメリカ。猛追する中国。果たして日本の先進技術、そして日本経済に未来はあるのか?

第一回記事はこちら『ヒトの意識をコンピュータへ移植することはできるか?』

第二回記事はこちら『生きたまま、ヒトの意識をコンピュータに移す方法とは?』

第三回記事はこちら『ヒトの意識をコンピュータに移したら、どんな世界が待ち受けているか』

第四回記事はこちら『イーロン・マスク率いるニューラリンク社が開発するロボット義肢とは』

ご愛読、誠にありがとうございました。

本連載(全8回)は、大幅加筆のうえ、再構成し、2024年6月、

『意識の脳科学――「デジタル不老不死」の扉を開く』(講談社現代新書)として刊行されました。

科学者のくせに、なにかとお金にうるさくて申し訳ないが、つい数年前までは、まったくお金に無頓着だった。高校生の時分、自分や家族を養ってくれている父親に向かって、「父さんのように、お金のためだけにあくせく働くつもりはない!」と豪語した。そんなあおい気持ちのまま、長らくアカデミアの温室に身をおいてきた。40代も半ばを過ぎて、ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」の経済の章を読み、資本主義の何たるかがようやく腹落ちしたくらいだ。

それが、2018年、大学発ベンチャーであるMinD in a Device社を共同創業したあたりで、見方が大きく変わった。意識の解明という自身の科学者としての夢、さらには、死にたくないとの中二病的な思いを、自身が生きているうちに叶えようとしたとき、アカデミアの枠にはどうしても収まらず、民間のしくみに頼る必要があることに気づいたのだ。エンゼル投資家の鎌田富久さんに出会い、そして投資してもらい、勉強させてもらったこともおおいに関係している。

そんな民間初心者のわたしではあるが、僭越ながら、わたしの捉える日本の現況とこれからについて語りたい。

近頃、日本はダメになったとの言説をよく耳にするが、実はそうではないのではないか。

確かに、80年代の日本は、今とは比べものにならないほどにイケていた。エズラ・ボーゲルの著作“Japan as Number One: Lessons for America”が世界的なベストセラーとなり、1982年公開のSF映画の金字塔「ブレードランナー」でも、2019年のロサンゼルスの夜の街に日本語ネオンが溢れている。そのくらいに、あのままいくと、日本経済が世界を席捲し、世界を手中におさめてしまうのではないかと恐れられていた。

ところが、ご存知のとおり、そうはならなかった。30年超にわたる低迷のきっかけとして、アメリカと交わしたプラザ合意(強制的に円をドルに対して割高にして、日本の輸出に歯止めをかけるもの)など、外圧があったのは間違いないだろう。ただ一方で、イケていた当時も、青息吐息の今も、日本のしくみはさほど変わっていないように思える。

新卒の大学生がこぞって大手企業に進み、そのなかでアイディアが生まれ、新製品を開発していく。受験戦争で押し上げられる知的水準にしても、企業の潜在的な開発能力にしても、現在の体たらくを説明するほどには衰えていないのではないか。

日本がダメになったのではなく、逆に世界が、特にアメリカが、よくなりすぎたのだろう。80年代の日本経済の台頭で、ゼネラル・モーターズやゼネラル・エレクトリックといった、アメリカ経済の屋台骨を支えてきた企業が軒並み経営不振に陥った。その経済的な焼け野原から、シリコンバレーを中心としたベンチャーの生態系がうまれ、アップルやグーグルといった今をときめく世界企業が萌芽し、現在にいたっても、先進的なベンチャー企業を育みつづけている。

そんななか日本だけが変わらなかった、いや、変われなかった。