長距離バスや貸切車は、GPSや内蔵機器で走行距離と速度を管理……作家・橘玲がウイグルを訪ねてわかった「中国化」の実態

AI要約

新疆ウイグル自治区では、大規模な開発と同化政策が進行しており、監視社会や中国化が進んでいる。

外国人や少数民族だけでなく、運転手やバスの運転もGPSで厳しく管理されている。

一方で、この管理システムが事故防止に役立っている可能性もあるが、それには賛否がある。

長距離バスや貸切車は、GPSや内蔵機器で走行距離と速度を管理……作家・橘玲がウイグルを訪ねてわかった「中国化」の実態

ウイグル人やタジク人などの少数民族が暮らす新疆ウイグル自治区では、近年、大開発とともに中国の同化政策が推進されている。実際に旅して見えた驚きの現実とは。

前編記事『コーランが隣の家から聞こえたら通報せよ……作家・橘玲がウイグルを1400旅して見えた「中国化」とは』より続く。

「完全監視社会の実験場」といわれている新疆には、たしかに町のいたるところに監視カメラが設置され、中心部は交差点ごとに警察署が置かれている(しかも夜になると赤や黄色に派手に点滅する)。

だがそれよりもインパクトが強いのは、どの町でも大通りの街灯に中国の五星紅旗や、正月飾りの赤い提灯、中国結び(赤い紐を結んだ縁起物)が延々と飾られていることだ。

トルファンからは車をチャーターしてシルクロードのオアシス都市(コルラ、クチャ、アクス)を訪れたが、その間に何ヵ所か検問所があった。

外国人は車から降りて個人情報の登録とパスポートの撮影が求められるが、ガイドが代行することもできるようで、私たちの場合は同行していた中国の知人がまとめてやってくれた。

これまで訪れた場所や、これから訪れる場所を詳しく聞かれたという。検問を通過した数時間後に警察からドライバーに電話があり、今後の宿泊先や目的地を聞かれることもあった。

外国人向けのホテルでもパスポートを登録するが、驚いたのは、前のホテルのチェックアウトの記録がないとチェックインの手続きができないことだ。それに加えて、観光地でもパスポートを提示し、係員がスマホで撮影する(ただし、こうしたデータがどこまでシステマティックに処理されているかは疑問だ)。

ドライバーは旅行後、私たちがどこに立ち寄ったかの報告書を出さなくてはならないという。

だが、監視されているのは少数民族や外国人だけではない。

トルファンからコルラへは鉄道で移動する予定だったが、強風のため日中の電車がすべて運休してしまった(ちなみにこれはよくあることらしい)ので、350キロ離れたコルラで待機しているドライバーに迎えにきてもらうことにした。

すると、トルファンに着いたら1泊しなければならないので、別途、宿泊費がかかるがそれでもいいかという。

理由を聞くと、長距離トラック・バスや、旅行者向けの貸切車はすべてGPSや内蔵機器で管理されていて、一日600kmまでしか運転できないという。

さらに3時間運転したらエンジンを切って20分の休憩を取らなければならず、法定速度を超えると自動音声による警告が流れ、それが3回連続すると管理会社から電話がかかってくる(それを繰り返すと罰金が科せられる)。

だが、これが過剰な管理なのかは日本でも意見が分かれるのではないか。長距離バスのドライバーの居眠り運転で多くの若者が犠牲になった事故は大きな社会問題になったが、一日の走行距離や、連続して運転できる時間がシステムとして管理されていれば、あのような悲劇は避けられたかもしれない。

なお、GPSのデータは管理会社を通じて警察に提出されるようだ。