「尹大統領夫人の参戦」でさらに深まった韓国政権勢力の分裂【コラム】

AI要約

尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と与党「国民の力」のハン・ドンフン前非常対策委員長の権力闘争が熾烈化している。

キム・ゴンヒ女史の介入や特検法案を巡る攻防が激化し、政局は最高潮に達している。

大統領弾劾の脅威が立ちはだかり、政権危機が表面化している。

尹大統領夫妻とハン候補の内部対立が国民の不信と怒りを引き起こしている。

特検法案の動向や弾劾の可能性が政治局勢を左右する展開となっている。

ハン候補が弾劾問題で生き残れるかが注目される状況だ。

国政における激しい権力争いや不正疑惑が政治危機を加速させ、改革の必要性が高まっている。

今後の展開次第で与野党合意や政権運命が決まる可能性がある。

「尹大統領夫人の参戦」でさらに深まった韓国政権勢力の分裂【コラム】

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と与党「国民の力」のハン・ドンフン前非常対策委員長の権力闘争が佳境に入っている。本来、内部の序列争いのほうが(外部勢力との争いよりも)熾烈であるものだが、今回はその度合いが通常のレベルを超えている。大統領室は、「国民の力」の党代表選挙に代理人を立て、ハン・ドンフン候補を「絶尹(尹大統領と絶縁)」だとして締め出したが、その程度では気が済まないようだ。大統領夫人のキム・ゴンヒ女史が、ブランドバッグ受け取り問題に関して、総選挙期間に「党(国民の力)が必要とするならば国民向け謝罪を含めどんな処分でも受け入れる」というショートメールを送ったのに、ハン候補が「既読無視」したという暴露まで出てきた。ハン候補がキム夫人の謝罪を拒否したことで、総選挙で負けたと主張したい構えだ。

 与党関係者内では事実上キム女史が参戦したものとみている。大統領がVIPナンバーワン、キム女史はVIPナンバーツーでなく、VIPナンバーゼロではないかというのが、これまで現政権を見てきた多くの国民の認識であろう。それを踏まえると、キム女史の参戦は尹錫悦大統領夫妻とハン候補が「ルビコン川を渡った」ことを示していると言える。VIPナンバーゼロまで登場した以上、事態を取り繕うのは不可能だとみるのが常識的だ。一時は一体となって動いていた尹大統領夫妻とハン候補が、生き残りをかけた「我と非我の闘争」(申采浩の『朝鮮上古史』より)に入ったわけだ。

 政権3年目の与党代表選挙が、候補間の競争を越え、大統領と有力候補間の政治運命をかけた血闘となるのは、極めて珍しいことだ。両方ともここで負ければ終わりだと考えているからだろう。

 尹大統領は今、ハン・ドンフン候補が党代表になれば、任期を全うできないかもしれないという恐怖に震えているようだ。すでに、尹大統領の無能さと専横に対する国民の不信感と不満は、臨界点を超えて久しい。中道層だけでなく保守層の一部でも、このまま3年以上続けば国が崩壊するのではという懸念を抱いている。残るは決定的な一打だ。韓国は職務上の重大な憲法・法律違反に弾劾事由を限定している。海兵隊員殉職事件捜査への外圧疑惑は、これにぴったりの事案と言える。まさにそこをハン候補が突いたのだ。

 最高裁長官など第3者推薦方式の(海兵隊員)C上等兵特検法の推進をハン候補が公言した瞬間、大統領の拒否権行使をはねのけ、特検そのものが実現する可能性が飛躍的に高まった。野党が特別検察官を推薦することになっている従来の特検法案は、拒否権で阻止できるかもしれない。しかし、第3者方式の修正案が再び上程されれば、(大統領にはそれを)食い止める手立てがない。すでに改革新党が大韓弁護士協会の推薦方式法案を示しており、祖国革新党も野党の特検推薦権を放棄して修正の可能性を残した。このような状況で、ハン候補が代表になれば、与野党合意で可決される可能性はドラマチックに高まる。たとえ、ハン候補が党内の強硬保守勢力に阻まれて落選したとしても、すでに(特検法を)拒否する名目が弱まっただけに、賛成する与党議員が増え、8議席の防御壁が崩れる恐れもある。

 ひとまず特検が始まれば、どこから何が出てくるか誰も断言できない。すでに持ち上がっている数々の重大な職権乱用疑惑が、容疑に確定する可能性が高い。最近は「キム・ゴンヒ女史へのロビー」疑惑まで持ち上がった。権力不正であり国政壟断事件に広がる可能性も排除できない。すでに多数の世論が(大統領に)背を向けている。いつ沸騰してもおかしくない状況だ。世論の沸騰を触発する決定的な一発が特検捜査で出てくるかもしれない。親尹錫悦派から「特検が実現すれば弾劾に向かう」(イン・ヨハン最高委員候補)という声があがるのもそのためだろう。

 ハン候補は「尹大統領の弾劾を確実に阻止する」とし、特検と弾劾の連携を否定している。しかし「国政壟断特検」で朴槿恵(パク・クネ)元大統領弾劾案可決の直接的な名目と正当性を提供した経験のある彼が、特検が弾劾の引き金になりうる事実を知らないとは考えられない。むしろ、誰よりもよく知っているから勝負に出たのではないだろうか。尹政権での今後3年のハン候補の最大の課題は、尹大統領と支持勢力の強力な牽制と脅威に耐え、生き残れるかどうかだ。弾劾はこのような不確実性を払拭し、確実な差別化を通じて脅威を機会に変える方法になりうる。

 政権の危機を計る指標として、世論の不満、政治的な怒りの高まり、政権エリートの分裂などが挙げられる。今は3つとも限界レベルだ。だが、政権2年にして警告音が鳴ったのは不幸中の幸いだ。これ以上壊れる前に正義を立て直し、国のあり方も正さなければならない。

ソン・ウォンジェ論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )