台湾観光の「顔」登山鉄道が完全復活へ 難工事成功で15年ぶり

AI要約

台湾中部の高山・阿里山を走る登山列車「阿里山森林鉄道」が15年ぶりに全線で運転を再開する。レトロな列車が高低差約2400メートルをゆっくりと上っていく姿は台湾内外のファンに愛されてきた。

台湾中部の嘉義から最高地点・祝山まで全長約78キロを結ぶ鉄道は急坂を上るためのスイッチバックやらせん型の線路が見どころ。1912年に建設されたこの登山列車は、三大登山鉄道として知られている。

2009年の台風8号で被害を受けた阿里山森林鉄道は、15年がかりの復旧工事を経て全線再開。トンネル寸断などで最大の難所を乗り越え、再び観光客を魅了する存在となった。

台湾観光の「顔」登山鉄道が完全復活へ 難工事成功で15年ぶり

 台湾中部の高山・阿里山(ありさん)を走る登山列車「阿里山森林鉄道」が度重なる豪雨被害からの復旧工事を終え、7月6日に15年ぶりに全線で運転を再開する。レトロな列車が高低差約2400メートルをゆっくりと上っていく姿は台湾内外のファンに愛されてきた。台湾観光の主役の一つが「完全復活」すれば、日本人旅行者にとっても魅力的な選択肢になりそうだ。

 ガタガタと車体を揺らしながら、列車が少しずつ高度を稼いでいく。1両当たり25席の客車が五つ連なり、最後尾から機関車が力強く押し上げる。木々の切れ間から雄大な山並みがのぞくと、客席を埋めた客から歓声があがった。

 山間部では時速20キロ程度で走る。次々に現れるカーブの先に落石や倒木を見つけた時に、すぐに停車するためだ。「大きな石が転がっていれば脇にどかすのに時間がかかります。到着が1、2時間遅くなることもあると思ってくださいね」(車内で車掌兼ガイドを務める黄宗理さん)

 鉄道は台湾中部の嘉義(かぎ)(海抜30メートル)から最高地点・祝山(同2451メートル)までの全長約78キロ。急坂を上るためのスイッチバックやらせん型の線路も見どころだ。日本統治時代の1912年に豊富なヒノキ材を運び出すために建設され、60年代に観光路線に転換。ダージリン・ヒマラヤ鉄道(インド)やアンデス山鉄道(チリ、アルゼンチン)と並ぶ三大登山鉄道と称される。

 2009年8月に発生し、台湾で犠牲者約700人を生んだ台風8号の影響で、線路など400カ所以上が壊れて運休。全面再開を3カ月後に控えていた15年に、またしても台風による土砂崩れに見舞われた。現在は嘉義-十字路(同1534メートル)など一部で運行している。

 工事期間が15年にも及んだのはなぜか。運営する台湾農業部(農林水産省に相当)の阿里山林業鉄路・文化資産管理処によると、最大の難所となったのは海抜1629メートル地点にあったトンネルで、10万立方メートルもの土砂崩れによって2カ所で寸断された。

 より硬い岩盤のある地点に新たに約1・1キロのトンネルを掘ることになったが、「重機や材料を運び込む道路が近くになく、無事だった鉄道の枕木などを撤去して道路を作った」(同管理処で工事責任者を務めた連祥益さん)と言う。年間3000ミリ近くの雨量を記録する地域で、掘削中にはたびたび大量の出水にも悩まされた。

 22年に始まったロシアのウクライナ侵攻も予想外の難題を招く。工事に欠かせない爆薬の需要が急増し、入手が難しくなってしまったのだ。質の劣る爆薬でさえ、価格が倍近くに高騰。トンネル工事は予想を上回る3年半を要して、23年末に終了した。

 鉄道以外にも自家用車やバスを使って阿里山を訪れる観光客も少なくない。だが地元関係者にとっては名物列車の「復活」は特別な意味があるようだ。車掌の黄さんは「全線再開は私たちが待ち望んだ夢だった」と喜びを隠さない。再開後は嘉義―阿里山(600台湾ドル=約3000円、毎日1往復)などを運行する。来年以降、機関車9両や客車48両を追加投入し、さらに観光客を呼び込む計画だ。

 一方、台湾が誇る優れた自然は、災害と隣り合わせのリスクとなる面もある。今年4月の台湾東部沖地震では有数の観光地である花蓮(かれん)の「太魯閣(タロコ)渓谷」の広い範囲で落石が発生し、渓谷付近で17人が死亡した。

 阿里山林業鉄路・文化資産管理処の黄妙修処長によると、鉄道では毎日の運行前に入念な試走を行っているほか、リスクの高い場所を中心にセンサーを整備して落石の発生に備えている。

 黄処長は長期にわたる復旧工事の影響で、鉄道だけにとどまらない沿線の文化の重要性が認識されるようになったと説明。「高度によって移り変わる豊富な生態系や、自然環境を生かして地元で栽培される茶やコーヒーといった阿里山全体の文化を紹介していきたい」と話した。【阿里山(台湾中部)で林哲平】