【輸入品で5割値上がり】目抜き通りがシャッター街になった戦時下のモスクワ ロシア人のトラウマ「デフォルト」

AI要約

ウクライナ戦争から2年以上が経過し、ロシアのデフォルト状況に緊張が走っている。2022年、ロシア国民の反応や経済状況は注目されている。

厳しい制裁を受けたロシアは外貨準備の凍結を受け、デフォルト状態に陥る危機に直面していたが、内国債の発行によって資金調達を継続している。

1998年のロシアのデフォルトによる混乱を背景に、国境警備隊員がデフォルトの可能性に驚愕し、ロシア国民の記憶によって過去の傷が蘇る。

【輸入品で5割値上がり】目抜き通りがシャッター街になった戦時下のモスクワ ロシア人のトラウマ「デフォルト」

 開戦から2年以上が経過したウクライナ戦争。この戦争の趨勢を見極めるには、ロシア・ウクライナ双方の国民の「意思」を、注意深く見定める必要があります。

 開戦当初から西側諸国の厳しい制裁を受けることとなったロシア。その中で、ロシア国民は何を思うのか?2022年モスクワの様相をお伝えします。

*本記事は黒川信雄氏の著書『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。 「ロシアがデフォルト(債務不履行)するだと!? いつだ、一体いつ起きるんだ!」

 国境警備隊員の男は突然、怒鳴るように私に問いただしてきた。その動揺ぶりに、こちらの方が逆に驚かされてしまった。

 2022年5月下旬、ロシアに入国した際の出来事だった。厳しい態度で「何を取材しに来たのか」と問いただした国境警備隊員に対し、「現在のロシアの経済状況を取材したい」と回答した。そして、会話の中で「ロシアは間もなくデフォルトする」との見方を伝えると、彼は突然狼狽した様子を見せたのだった。

 当時、ウクライナに全面侵攻し、金融制裁を受けたロシアがデフォルトすることは、海外メディアの記者から見れば規定路線の流れだった。

 このときロシアは欧米諸国の経済制裁を受け、ロシア中央銀行は、海外の中銀に預け入れていた外貨準備の約半分が凍結されたとみられている。外貨建て国債の利息や、元本の支払いをするにはこの外貨準備が必要で、そのためロシアは5月末にも、債務が支払えないデフォルト状態に陥ることが確実視されていた。

 制裁による外貨準備の凍結は、〝人為的〟にロシアがこれらの支払いを行うことをできなくさせる効果があった。実際には、ロシアは2022年6月に外貨建て国債についてはデフォルトに至ったものの、凍結された外貨準備を完全に失ったわけではなく、結局その後も国内向けの国債を発行することで、資金調達を継続することができた。

 ただ、そのような人為的なデフォルトの経済的な意義はともかく、国境警備隊員の男がうろたえたのは無理もないことだった。彼の脳裏には、1998年のロシアのデフォルトが引き起こした混乱がよぎっていたに違いない。ロシア人であれば、誰もが思い出したくない出来事だからだ。