「計算能力」を支配する企業こそが、史上最も支配的な企業となる

AI要約

アインシュタインの理論物理学から、21世紀は「計算能力」こそが最も強力なエネルギーとして定義されるだろう。

エネルギー産業からIT企業への主導権の移行が進んでおり、計算能力の重要性が増している。

過去から現在に至るまでのエネルギーと計算能力の変遷が解説されている。

「計算能力」を支配する企業こそが、史上最も支配的な企業となる

この記事は、ベストセラーとなった『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者で、ニューヨーク大学スターン経営大学院の経営学者であるスコット・ギャロウェイによる連載「デジタル経済の先にあるもの」です。月に4回お届けしています。

アインシュタインは質量がエネルギーの一形態であるという発見によって20世紀を定義した。現代の理論物理学はさらに根源的なことを提示している。質量もエネルギーもすべて「情報」に還元されるということだ。21世紀は情報の操作、すなわち「計算能力」こそがエネルギーの最も強力な形態であるという認識によって定義されるだろう。「計算能力」を支配する企業こそが、史上最も支配的な企業となるのだ。

経済活動が始まって以来、エネルギーは経済の動向を左右する存在だった。だが現在の株式市場では、石油大手からIT大手に主導権が移ったという見方が有力である。1980年代と2024年の企業価値の高い企業ランキングを見ると、それぞれエネルギー企業とIT企業が上位を占めているので、これは実態に即した見方だといえよう。

一方で、広大なデータセンターの建設と、その稼働に必要なエネルギー投資は、両業界の密接な繋がりを示している。AIの発展により、IT大手は「コンピュータを売る会社」から「計算能力を売る会社」へと急速に変貌を遂げつつある。そして、知識型の経済においては、計算能力こそがエネルギーなのだ。

1万年前、エネルギーは唯一の産業だった。当時の世界は人力(筋力)で動いており、食料がエネルギー源だった。肥沃な中東地域で始まった定住農業は余剰を生み、その余剰を取引する、つまりエネルギーを交換する学問として経済学が登場した。

その後、人間は有機物(木材、石炭、石油)に含まれるエネルギーを解き放ち、機械が人力に取って代わり、エネルギー産業は機械を動かすビジネスとなった。石油は機械の動力源として他の追随を許さず、砂漠から富裕国を生み出した。

時価総額ランキングではビッグテックが上位を独占しているかもしれないが、収益の王者は依然としてエネルギー産業だ。収益ベースでは上位10社のうち6社がエネルギー企業であり、この業界が最大の収益を上げている※1。とはいえ、ITも年々エネルギーに似た様相を示し始めている。