韓国から「同胞の皆さん、自由の放送を始めます」…軍事境界線近くの北朝鮮兵士の動揺狙い

AI要約

韓国軍が南北軍事境界線付近で北朝鮮への体制批判宣伝放送を再開し、北朝鮮は反発して軍事報復措置を示唆している。

放送は約6年ぶりの実施で、内容は北朝鮮当局の海外映像視聴取り締まりの厳しさ、韓国グループBTSの曲などだった。

北朝鮮が風船でゴミを散布したことに対抗し、今回の放送再開となったが、北朝鮮は対抗措置を示唆している。

 【ソウル=小池和樹】韓国軍は9日、南北軍事境界線付近で拡声機による北朝鮮の体制批判を行う宣伝放送を再開した。過去には北朝鮮が中止を求めて砲撃したこともある措置で、約6年ぶりの実施だ。北朝鮮は反発し、軍事的な報復措置を示唆している。

 聯合ニュースによると、放送は同日午後5時から「北朝鮮同胞の皆さん、こんにちは。自由の放送を始めます」というあいさつから始まった。その後、北朝鮮住民が当局の海外映像視聴の取り締まり強化に苦しんでいるというニュースや、韓国男性グループ「BTS」の曲などを流した。放送は約2時間で、韓国軍は「放送を追加実施するかは、北朝鮮の行動にかかっている」とした。

 韓国メディアによると、放送を流す拡声機は車両移動型と固定型があり、最長で約30キロ・メートル先まで聞こえる。計40台配備でき、今回使われたのは数台だったという。軍事境界線近くの北朝鮮軍兵士の動揺を誘うことが主な狙いで、実際、過去には放送を聞いて韓国社会に憧れて脱北を決意した元兵士もいるという。

 今回の放送再開は北朝鮮が風船でゴミを散布していることへの対抗措置で、韓国大統領府報道官は9日、「北朝鮮の政権にとって耐えがたいだろう」と述べた。

 拡声機による宣伝放送が始まったのは朴正煕(パクチョンヒ)政権の1963年だ。最近では北朝鮮に融和的な左派の盧武鉉(ノムヒョン)、文在寅(ムンジェイン)政権の際には中止され、保守政権の際には北朝鮮の挑発に対応する形で再開してきた。保守の朴槿恵(パククネ)政権だった15年8月には、軍事境界線沿いの非武装地帯(DMZ)で韓国兵が地雷で負傷したことを受けて再開すると、北朝鮮は中止を求め砲撃を行った。

 今回再開する理由となった北朝鮮のゴミ散布は5月末に始まり、韓国軍によるとこれまで4回、計約1600個の風船を韓国に飛ばした。韓国メディアは車の窓ガラスが壊れる被害を伝えている。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は先に、「普通の国は恥ずかしがる卑劣な挑発だ」と述べ、強硬な姿勢で対応する方針を示していた。

 一方、北朝鮮も韓国への反発を強める。金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党副部長は9日、ゴミの散布は韓国の脱北者団体による体制批判のビラ散布への「最小限の正当な対応だ」と主張した。韓国の宣伝放送を「危機的環境をつくった」と批判した上で、「ビラ散布と放送を並行する場合、我々の新たな対応を目撃するだろう」と軍事挑発に踏み切る意向を示唆し、威嚇した。