退学を恐れず抗議する米エリート大学生。日本の報道では伝わらない彼らの「使命感」

AI要約

アメリカの大学生がパレスチナ自治区ガザ地区へのイスラエル攻撃に抗議活動を行い、逮捕者が続出する中、日本でのデモの受け止められ方に違和感を感じる。

アメリカの大学で学生運動が拡大した背景を振り返り、2024年4月に全米の大学で爆発的な抗議活動が起こった経緯。

警察の介入により数多くの学生が逮捕される一方、学生や教員は学問の自由や自治権を主張し抗議活動を続けている。

退学を恐れず抗議する米エリート大学生。日本の報道では伝わらない彼らの「使命感」

「大学生がデモをしてなんの意味があるのか?」

パレスチナ自治区ガザ地区へのイスラエルの攻撃に対して、アメリカの大学生らが抗議活動を繰り広げ、逮捕者が続出したことは日本でも報道された。

一方で、日本での報道や抗議活動への反応を見てみると、その有効性を問う意見や冷笑するような態度を感じる事が何度かあった。

しかし、ニューヨークに暮らし現地の報道に触れ、近くで空気感を感じている私にとっては、日本でのデモの受け止められ方には違和感がある。

シリーズ企画「2024年米大学卒業式、注目のスピーチ」ではこれまで、国際政治学者イアン・ブレマーやバイデン大統領のスピーチをつたえてきたが、4回目の今回はそもそもなぜアメリカの大学でここまで学生運動が拡大したのかその背景を振り返り、日本との意識の違いについても解説したい。

シリーズ1回目:イアン・ブレマー、卒業式での問いかけ「なぜ中東ばかり注目するのか?」

シリーズ2回目:バイデン氏、黒人大学の卒業式スピーチで「家族との死別」を語った理由

シリーズ3回目:「受け入れられる拷問を見つけよ」。米人気コメディアンが卒業式で語った“成功の鍵”

まずはアメリカで学生デモが頻発するまでの経緯を振り返る。

大学キャンパスにおける、ガザにおけるイスラエルのジェノサイド(集団殺害)批判派と、それを「反ユダヤ主義」と糾弾する側との対立は、イスラム組織ハマスがイスラエルに攻撃した2023年10月7日以来、ずっと続いてきた。

一方で、ユダヤ系の学生たちのなかには「学校に行くことに居心地の悪さ(あるいは身の危険)を感じる」と言う学生たちもおり、彼らへの配慮などからすべての授業をオンライン化した学校もあった。

緊迫が一気に高まったのは、2024年4月18日のことだった。

この日、ニューヨークのコロンビア大学で150人以上の学生がニューヨーク市警に「不法占拠」を理由に逮捕されたのだ。これをきっかけに、抗議行動が全米の大学に爆発的に広がった。

一つ重要な背景がある。この前日、4月17日、連邦議会でコロンビア大のミノーシュ・シャフィク学長が、学生たちの言動が、ユダヤ人に対する差別や攻撃を助長する「反ユダヤ主義」だと認めたのだ。

翌18日、ニューヨーク市警は、大学当局の要請によりキャンパスに踏み込んだ。この議会での学長の発言、それに続く警察の介入という流れが火に油を注ぐこととなった。

抗議活動は多くの大学に広がった。一部のリストでしかないが、東海岸のハーバード大学、ブラウン大学、イエール大学、ニューヨーク大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、タフツ大学、中西部のオハイオ州立大学、ミシガン大学、南部のテキサス大学、アリゾナ州立大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、マイアミ大学、西海岸のUCLA、UCバークレー、南カリフォルニア大学などで、この一カ月の間、学生たちがキャンパスに野営地を張って座り込んだり、ハンガーストライキをしたりという形で、抗議活動を行ってきた。

数多くの学校で、コロンビア大学同様、警察の介入を求め、キャンパス内で警官ともみ合い逮捕される学生たちの姿が日々報じられた。

学生だけではなく教員、職員たちも抗議に参加している。彼らは、「平和的な抗議活動を鎮圧するためにキャンパス内に警官や武装した機動隊を出動させ、丸腰の学生たちを逮捕するのは、学問の自由、言論の自由に反する上、大学という研究機関の自治・独立を侵食するものだ」と主張する。

警察に逮捕された学生、教員の数は、4月18日から28日までの10日間で1000人を超え、5月下旬には2900人に上っている。