天安門事件から35年、弾圧一段と正当化…言論統制で事件の風化進み犠牲者遺族も高齢化

AI要約

1989年の天安門事件から35年を迎え、中国共産党政権は事件を再評価せず、弾圧を正当化する姿勢を示している。

事件の影響は中国国内では風化が進んでいるが、香港や台湾では追悼集会が行われ、犠牲者を偲んでいる。

遺族らは真相の公表や賠償を求めて声を上げ続けており、当局は批判を恐れつつも対抗意識を鮮明にしている。

 【北京=川瀬大介、台北=園田将嗣】中国共産党政権が民主化要求運動を武力弾圧した1989年の天安門事件から4日で35年となった。当局は北京などで厳戒態勢を敷き、政権への抗議の動きを封じ込めた。米中対立が続く中、習近平(シージンピン)政権は「動乱」と断じる事件の再評価を拒むだけでなく、弾圧を一段と正当化している。

 北京中心部の天安門広場では4日、治安当局者が通行人に目を光らせた。犠牲者を弔う遺族による北京郊外の墓地訪問も当局の監視下で行われた模様で、周辺で私服当局者らが警戒にあたった。事件を伝えるNHKの海外向けテレビ放送のニュースは一時中断された。

 2019年まで大規模な追悼集会が開かれていた香港のビクトリア公園周辺でも多数の警官が追悼の動きを警戒した。公園近くでは3日夜、事件の年月日を示す「8964」を手ぶりで表現した芸術家男性が警官に連行された。追悼の舞台は香港から台湾に移っており、台北市で4日に行われた追悼集会には、香港大から21年に撤去された犠牲者追悼のための彫像「国恥の柱」のレプリカが置かれた。

 中国国内では政権が強める言論統制により事件の風化が進み、犠牲者の遺族も高齢化した。政権に真相の公表や賠償を求める遺族らでつくる「天安門の母」メンバーは既に73人が亡くなったという。

 同会創設者の一人で、高校2年だった三男の王楠さんを失った張先玲さん(86)は、本紙の取材に、「あの日のことは昨日のことのように覚えている。どうして息子や罪のない人々が殺されなければならなかったのか。政府が事実から目をそらし、耳をふさぐ無責任な態度である以上、私たちは声を上げ続けていく」と語った。

 事件への批判の再燃を恐れる当局はこうした声に応じていない一方、習政権下での人権状況の後退を批判する米欧への対抗意識を鮮明にしている。

 薛剣(シュエジエン)駐大阪総領事は4日、X(旧ツイッター)で武力弾圧を「勇気ある英断と果断な行動」と礼賛した。「西側の(民主化運動を指す)カラー革命の陰謀を打ち負かしてから35周年」を迎え「熱烈に祝賀する」と記した天安門入りのイラストを添えた。中国外務省の報道官も4日の記者会見で、事件について「とっくに明確な結論を出している」と繰り返し、再評価をしない立場を改めて強調した。

◆天安門事件=1989年6月3日夜から4日にかけ、民主化を要求して北京中心部の天安門広場を埋め尽くした学生らを、共産党政権が「反革命暴乱」とみなし、軍を投入して戦車などで鎮圧した。中国政府は死者数を319人と発表したが、実際にはこれよりはるかに多いとみられている。