プレミアリーグの経験がもたらす圧倒的な成長速度を知ってしまった両者の対峙。岡山U-18と鹿児島城西の初昇格対決はドロー決着!

AI要約

岡山U-18と鹿児島城西高の激戦が1-1のドローに終わる。

両チームの若手選手たちはプレミアリーグで経験を積み、成長を感じている。

プレミアリーグの舞台で繰り広げられる熱戦から、選手たちが学び成長している。

プレミアリーグの経験がもたらす圧倒的な成長速度を知ってしまった両者の対峙。岡山U-18と鹿児島城西の初昇格対決はドロー決着!

[5.18 プレミアリーグWEST第7節 岡山U-18 1-1 鹿児島城西高 岡山県総合グラウンド補助陸上競技場]

 習うより、慣れよ。想像するより、戦え。ここまで経験してきた7試合が自分たちにもたらしている効果は、何より自分たちが痛感している。だからこそ、負けたくない。勝ちたい。残りたい。だって、プレミアリーグがこんなに成長できるステージだということを、もう知ってしまったから。

「プレミアで戦うことで、試合に出ている選手の『そこで活躍したい』という想いと、出ていない選手の『そこでプレーしたい』という想いは、僕が100回良いことを言うよりも、てきめんに表れているかなと思います」(岡山U-18・梁圭史監督)「プレミアで7試合もやると、日常のトレーニングからパススピードも上がりますし、倒れてもすぐ立ち上がることも当たり前のようにできるようになってきますし、『百聞は一見に如かず』どころじゃないですよね」(鹿児島城西高・新田祐輔監督)。

 プレミアリーグ初昇格チーム同士の熱戦は、勝ち点1を分け合うドロー決着。18日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 WEST第7節で、ファジアーノ岡山U-18(岡山)と鹿児島城西高(鹿児島)が対峙した一戦は、前半37分にFW末宗寛士郎(2年)のヘディングで岡山U-18が先制するも、後半2分に鹿児島城西も交代出場のDF吉田健人(2年)が同点ゴール。試合は1-1で引き分けている。

「前半は自分たちが良い形で攻撃できていたと思います」とキャプテンのMF藤田成充(3年)も振り返ったように、立ち上がりから岡山U-18はその藤田とMF加納尚則(2年)、MF南稜大(3年)と中盤を形成する3人を軸にボールを動かしながら、窺うチャンス。27分にはGK脇谷静香(3年)からボールを受けたMF磯本蒼羽(3年)が左サイドを運び、右足でクロス。ニアに飛び込んだ末宗のヘディングは枠の左へ外れたものの、あわやというシーンを創出する。

 一方、「相手が勢いよく入ってきたので、入りとしては凄く悪かったです」とキャプテンのGK藤吉純誠(3年)も口にした鹿児島城西は、なかなか攻撃の形ができない中で、29分にはMF添島連太郎(3年)の果敢なプレスから、最後はFW大石脩斗(2年)が枠へ収めたシュートは脇谷がキャッチ。34分には決定機。大石を基点に粘った添島の右クロスから、MF中村玲音(3年)がシュート気味に合わせたボールを、MF柿元翔毅(3年)が頭で狙うも軌道は枠の上へ。スコアを動かせない。

 すると、ホームチームの歓喜は37分。相手の縦パスをDF繁定蒼(3年)が果敢にインターセプト。DF田邊健太(2年)が繋ぎ、左サイドを運んだ磯本がここも右足で好クロスを蹴り込むと、ニアサイドで舞った末宗のヘディングが鮮やかにゴールネットを揺らす。

「ドリブルとクロスは自分の特徴でもあるので、良いところで仕掛けて、良いボールを蹴れたのかなと思います」と磯本が話せば、「蒼羽くんが持った時に、ちょっと溜めて入ることを意識していて、ボールが良かったので決めるだけでした」とは末宗。2年生ストライカーはこれで今季4ゴール目。岡山U-18が1点のアドバンテージを手にして、最初の45分間は終了した。

「ハーフタイムに修正を掛けた中で、監督から『1人1人声を出せ!1人1人が戦う意識を持て!』という喝が飛びました」(藤吉)。指揮官の喝は後半開始早々に奏功する。2分。右サイドで獲得したスローイン。DF柳真生(3年)のロングスローから、相手のクリアに食らい付いたDF當眞竜雅(3年)が右クロスを上げ切ると、前半から途中投入されていた吉田がヘディング。ボールはゴールへ吸い込まれる。「『気持ち見せてこい!』と言われて、その気持ちを見せられたからゴールが獲れたと思います」(柳)。1-1。両者の点差は霧散する。

「1個のセットプレーから決められてしまって、そこから悪い流れが続いたかなと思います」(磯本)。ボールこそ動かすものの、なかなかテンポが出てこない岡山U-18に対して、鹿児島城西はセットプレーも含めたシンプルなアタックで掴んだゲームリズム。27分には藤吉のキックを巧みに収めた大石が右サイドを切り裂き、放ったシュートは脇谷がファインセーブ。37分にも柳の左ロングスローから、自らこぼれを拾った柳のクロスに、大石が強引に合わせたヘディングは枠の左へ外れたものの、逆転への雰囲気を漂わせていく。

 43分にも鹿児島城西にビッグチャンス。ルーズボールを拾ったMF常眞亜斗(2年)の浮き球をMF谷口楓真(3年)が繋ぎ、右へ流れたFW浮邉泰士(2年)が打ち切ったシュートは枠を襲うも、ここも脇谷がファインセーブで回避。188センチの守護神がチームの窮地を救ってみせる。

「抜かりはなかったと思うんですけど、やっぱりちょっとした相手の強みで上回られたという印象です」(梁監督)「もちろん満足はしていないはずですけど、もっと必死に『勝ち点を獲りに行くぜ』という気持ちまで出してほしかったかなと思います」(新田監督)。ファイナルスコアは1-1。前半はホームチームが、後半はアウェイチームが持ち味を発揮した90分間は、両雄に勝ち点1ずつが振り分けられる結果となった。

 鹿児島城西を率いる新田監督は開口一番、「こんなゲームばっかりです」と苦笑気味に語る。ここまでの7試合は2分け5敗とまだ待望の初勝利には届いていないが、負けたゲームを見てもサガン鳥栖U-18(佐賀)、ヴィッセル神戸U-18(兵庫)、名古屋グランパスU-18(愛知)にはいずれも1点差の惜敗。藤吉も「自分たちはプレミアリーグでもボロ負けしていないというか、やれている方だと思います」と一定の手応えを口にしている。

 プレミアリーグ昇格を手繰り寄せたプレーオフで、スタメンを張っていた選手たちは全員が卒業。今季はまったくの新チームとして立ち上がったが、とりわけ守備に関して指揮官は大きな進化を感じているという。「プレミアをやっているだけで守備の仕上がりは例年より早くて、後ろが高さがなかったりするんですけど、『みんなで固まりながら守る』というのは手応えも掴んでいますね。勝ち星は付いていないですけど、5点も6点も獲られてやられているわけではないので、『本当に君たちは伸びしろがあるよね』と言ってやっているんです」。

 何より毎回が全国大会のような強豪と肌を合わせることに、選手たちも新田監督もとにかくワクワクしている。「生徒たちはメチャクチャ楽しそうですよ。毎日のバチバチ感は自分も練習していても楽しいですよね。あとは私も成長しているのかなと(笑)。自分で言うのもなんですけど、この1か月ちょっとでいろいろなチームを分析しながら、自分たちの強みをどう出すかという部分は、メンタルも含めてメチャクチャ成長させてもらっているなと。だから楽しいんですよ」。

 今週からはもうインターハイ予選が幕を開ける。プレミアで培ってきた実力を発揮するには格好の舞台。「ここまでプレミアでやってきたことに自信を持って、プラスに捉えつつ、インターハイに向けてポジティブに向かっていけたらなと思っています」と藤吉。鹿児島城西の2024年は、きっとここからがより一層面白い。

「プレミア、メッチャ楽しいです。自分たちも含めて、どちらかが偏って強いということがないリーグで、ほぼ五分五分の試合が多いので、『結果を出したい』と思いながら、楽しんでいます」。岡山U-18の10番を背負う磯本は、少し笑顔を浮かべながらこう言い切っている。

 プレミアリーグのステージで拮抗した試合を繰り広げることの意義を、梁監督はこう語る。「いろいろな特徴を持つチームがあるので、ちょっとでも隙があるとやられますよね。『これでやられるか』というシーンは凄くあるので、トレーニングもメチャクチャ集中力が高くなりますし、ゲームになると一瞬も油断できないシーンはメチャクチャ多いので、もうヒリヒリするというか、僕も見ていてドキドキしますよ(笑)」。

 また、キャプテンを務める藤田も「毎週毎週レベルの高い新しい相手と試合ができていて、その中で自分たちも先週はできていなかったけど、今週はできているという部分もあれば、また新しくできていない部分が出てきたり、今日のような高体連特有の感じのロングスローからの失点も今まではなかったので、そういうこともメッチャ楽しいですね」と言及しており、発見の少なくない日々をポジティブに楽しんでいる様子が窺える。

「『一瞬の隙を見せなかったからやられなかった』というプレーが増えているのも間違いないですし、でも、『その一瞬でやられた』というプレーがあるのも間違いないので、選手にとっては何回言うよりも1回経験することが大事ですし、それを改善しないとこのリーグに生き残っていけないこともわかっているはずなので、そういうサイクルが一番選手の成長に繋がるかなと思っています」(梁監督)。

 開幕は連敗スタート。初勝利を挙げた第3節から連勝を飾ったものの、そこから再び連敗を喫し、今度は初めてのドロー。一歩進んで、一歩下がって、勝ちを喜んで、負けを悔しがって、それでもまた前を向く。これもプレミアの世界へ足を踏み入れたからこそ、味わえる日常。岡山U-18が2024年に刻む新たな歴史のストーリーは、まだプロローグが綴られ始めたばっかりだ。

(取材・文 土屋雅史)