【菊地敏幸連載#41】「一場靖弘への裏金25万円」は私が無断で行った、という話に

AI要約

2004年には野球界にとって重要なターニングポイントがありました。ドラフトの逆指名制度を巡る一場問題や球界再編問題が勃発し、オリックスと近鉄が合併するなど様々な出来事が起こりました。

一場靖弘の裏金問題が発覚し、他球団も一場獲得に消極的になる中、楽天の戦力整備が急務となりました。楽天による一場のドラフト自由枠での獲得が話題となりました。

一場問題収束後の2005年にはNPBが倫理行動宣言を発表し、金銭供与を禁止する方針を打ち出しました。同時に阪神球団ではスカウトの裏金問題が浮上し、一連の問題で私自身もスカウト職を外される処分を受けました。

【菊地敏幸連載#41】「一場靖弘への裏金25万円」は私が無断で行った、という話に

【菊地敏幸 辣腕スカウトの虎眼力(41)】2004年は野球界にとってターニングポイントとなるシーズンでした。1993年からスタートしたドラフトの逆指名制度を根幹から揺るがす「一場問題」が発覚。同時に経営難にあえぐパ・リーグオーナー陣が中心となり、10球団1リーグ制を目指した球界再編問題が勃発していました。その象徴的な動きがオリックス、近鉄の合併だったわけです。

 明大の投手としてドラフトの目玉だった一場靖弘は6月には希望球団を巨人に絞っている状況でした。ところが、8月になって裏金問題が明るみに出て巨人への自由枠指名が白紙に。その後に一場獲得を目指していた横浜、阪神にも同様の問題が発覚しました。一場自身としては行き場がない状態に陥っていました。

 一連の事件が影響し、金銭の授受を行っていなかった他球団も一場の獲得には消極的になりました。ドラフト会議当日までほぼ1か月というタイミングでの混乱だっただけに、各球団もほぼ固まっていたであろうドラフト戦略を見直すことが困難だったはずです。

 ただ、球界再編問題のさなかに新しく誕生することになった楽天の戦力整備という問題も切実でした。合併しても存続するオリックスには現有戦力プラス分配ドラフトされた近鉄の選手が加わります。

 ですが、楽天は分配ドラフトで獲得した選手プラス、ドラフトで戦力を整えなくてはなりません。どう考えても戦力不足は明らかでした。他球団が手を出しにくい状況で、新規参入球団の楽天に一場がドラフト自由枠で加入するという流れは程よい落としどころだったのかもしれません。

 一場問題が収束した後の05年6月、NPBは「新人選手獲得活動において、利益供与は一切行わない」ことなどを柱とした倫理行動宣言を発表。契約前のアマ選手に対しての金銭供与を禁止することが決まりました。

 阪神は久万オーナーが辞任。野崎球団社長も程なく退任し、牧田球団社長が後任となりました。担当スカウトであった私はスカウト登録を抹消され05年1月31日までスカウト職を外される処分となりました。

 阪神が内部調査で算出した25万円という裏金。これは当時の報道では私が個人的に支出したことになっています。つまり、1人のスカウトが上司や球団に無断で25万円の現金を自腹で供与したということになっています。球団オーナーが知らなかった、球団社長が知らなかった。スカウトが支出した経費や使途を、その立場の方々が知らないというのはむしろ普通のお話でしょう。スカウト個人の判断で行ったということが組織として調査を尽くした結論であるなら、組織の一員である当時の私はそれを受け入れました。

 こういう場面ではスカウト陣を束ねる黒田正宏編成部長がマスコミ対応をすることになります。担当スカウトの菊地が自身の判断で行った行為。多くの取材陣に囲まれ、矢面に立って説明しなければならなかった黒田部長は心苦しかったことだろうと思います。

 処分期間の満了をもって私はスカウト職に戻りました。ここで、自分だけの責任だなんて…と下を向いていても始まりません。以前と同じく前を向いて自分の仕事をするだけです。

 次回からは2000年代後半のドラフトエピソードをお話しさせていただきます。もう少しお付き合いください。