福岡から全国に広がる「金の卵」発掘事業 開始20年でメダリストも

AI要約

福岡県タレント発掘事業が20年を迎え、全国各地に広がっている。パリ・オリンピックでは修了生8人が日本代表に入り、2人がメダルを獲得。

タレント発掘事業は小中学生の運動能力を見極め、専門的なプログラムを提供してトップアスリートを育成。過去の競技経験を問わず多彩な競技を体験し、最適な競技を見つけるスタイル。

福岡出身のフェンシング選手たちがタレント発掘事業の成果を示し、他地域でも同様の取り組みが行われている。

福岡から全国に広がる「金の卵」発掘事業 開始20年でメダリストも

 オリンピックなどで将来活躍しうる才能を小中学生のうちに見つけ、トップアスリートに育てる「福岡県タレント発掘事業」の手法が、開始20年を経て全国各地に広がっている。パリ・オリンピックでは福岡の修了生8人が日本代表に入り、2人が修了生として初のメダルをつかんだ。好調の背景には、「金の卵」との出会いに意欲的な競技関係者の姿勢もあるようだ。

 「発掘事業がなければフェンシングに出会っていないし、感謝の気持ちでいっぱい」。パリ五輪フェンシング女子サーブル団体銅メダルの福岡県宗像市出身、福島史帆実選手(29)は8月28日、県庁でのメダル獲得報告会で笑顔を見せた。

 タレント発掘事業は、運動能力の高い児童生徒を見つけ、専門的なプログラムを施して世界レベルのアスリートの育成を目指そうと、2004年度に始まった。

 参加対象は小学5年~中学3年までで最長5年間。体力テストなどの選考会を通過して受講生に選ばれると、毎週土曜にアクシオン福岡(福岡市博多区)で開かれるプログラムに参加する。最大の特長は、過去の競技経験を問わずレスリングや柔道、スケート、ラグビーなど多くの競技を体験させ、自分に最も合う競技を見つけていくスタイルだ。

 もともと陸上をしていた福島選手は小学5年から5年間受講し、フェンシングの剣を初めて握ったのは中3の時。本人は「ピンとこなかった」という。

 当時を知る人が、タレント発掘事業の第1期からの指導員で福岡県立玄界高フェンシング部顧問の野元伸一郎さん(56)。福島選手が自然に見せた俊敏な動きと剣さばきに驚き、「間違いなくオリンピックに行ける」と最高評価をつけた。

 その後、福島選手は野元さんが当時フェンシング部顧問をしていた県立福岡魁誠高に進学。「五輪でメダルを取るならフェンシングしかない」と練習に打ち込み、3年時に全国高校総体で優勝。東京五輪で代表入りし、連続出場のパリで銅メダルを獲得した。

 共にサーブル団体銅メダルの福岡県大牟田市出身、高嶋理紗選手(25)も修了生だ。ソフトボールに打ち込んでいたが、小学6年でフェンシングを受講中、視察に来た日本フェンシング協会のスタッフの目に留まった。これを機に競技を転向し、中学から上京。日本オリンピック委員会(JOC)エリートアカデミーで世界で戦える力をつけた。

 パリ五輪にはフェンシングのほか自転車競技、陸上やり投げ、7人制ラグビー、ハンドボールに、3期から12期までの修了生8人が選ばれ、高嶋選手ら5人が初代表となった。特にメダリスト2人は未経験の競技に転向しての快挙で、野元さんは、普段経験できないスポーツに触れ、適性を見るタレント発掘事業について「可能性を広げる意義があり、良さを痛感した」と話す。

 「修了生がメダルを獲得したインパクトは大きい。受講生たちの励みになり、夢も広がっている」と喜ぶのは事業を担当する公益財団法人福岡県スポーツ振興センターの手島和人課長(51)だ。事業は東京五輪で福島選手ら修了生3人が初めて出場したこともあり認知度が向上。23年度は1次選考に小中学生5万5321人が集まり、67人を選出し、現在、継続受講生を合わせ計164人が参加する。

 22年度からは、障害のある児童生徒らを対象にしたタレント発掘事業「フクオカ・パラスター・プロジェクト」も始めた。小学6年生以上の44人が車いすテニスやバドミントンなどを体験し、自分に合った競技を探す。県の担当者は「いずれパラリンピアンを出したい」と期待を寄せる。【城島勇人、井上和也】

 ◇同種の取り組み、全国41都道府県47地域に

 タレント発掘事業のきっかけは、2001年に日本オリンピック委員会(JOC)が掲げたメダル倍増計画「ゴールドプラン」にさかのぼる。1996年のアトランタ五輪で1・7%に低下したメダル獲得率(総メダル数に占める日本の割合)の引き上げ策の一環で、地域と連携したアスリート育成が重要となり、オーストラリアの先行事例を参考に事業を考案。国立スポーツ科学センター(東京)が協力自治体を探す中で一番熱心だったのが福岡県だった。

 今年で開始から20年を迎え、福岡の修了生はこれまでに473人を数え、全国大会優勝者を延べ256人、国際大会出場者を延べ586人輩出している。

 全国の育成事業に関わる日本スポーツ振興センター(東京)によると、福岡発の同種事業は、8月末時点で41都道府県の47地域で実施。パリ五輪では、福岡の修了生8人の他、各地の修了生計5人も出場し、このうち京都府出身の飯村一輝選手(20)はフェンシング男子フルーレ団体で金メダルを獲得した。

 振興センターの山下修平さん(47)は「フェンシングや自転車、ラグビーなどの競技団体が育成事業を活用しながら良い選手を発掘、育成している」と評価。「運動能力が高い人を集め、その人に合った競技をマッチングさせると高い競技力を発揮する。福岡での手法が良かったからこそ全国に広がった。全国どこにいても運動能力と志が高ければ、五輪を目指せる環境整備が重要だ」と強調する。【城島勇人】