藤井聡太22歳や羽生善治53歳も対局中に席を外すけど…将棋と“トイレ休憩”ウラ話「特別対局室の個室が半開き」「秒読み中に“どうぞ”」

AI要約

将棋会館の新設計画が進行中で、棋士たちは特にトイレの配置に注目している。

対局中にトイレを利用することは生理的な理由だけでなく、気持ちを整えたり戦意を高揚させるためにも重要な役割を果たす。

対局者がトイレに行くタイミングは、形勢の変化や好手の発見など勝負の節目に関連している。

藤井聡太22歳や羽生善治53歳も対局中に席を外すけど…将棋と“トイレ休憩”ウラ話「特別対局室の個室が半開き」「秒読み中に“どうぞ”」

棋士は対局中にお茶などの飲み物を頻繁にとる。頭を酷使したり緊張感が高まると喉が渇くからで、「トイレ」に行くことが必然的に多くなる。ただ生理的な理由だけではない。自身の気持ちを整えたり、戦意を高揚させる絶好の場でもある。対局においてのトイレに関する様々なエピソードを、田丸昇九段が2回にわたって紹介する。【棋士の肩書は当時。全2回の前編/後編に続く】

 東京・千駄ヶ谷の将棋会館は、建設中の「千駄ヶ谷センタービル(仮称)」1階に10月以降に移転する。公式戦の対局は来年から同所で行われる。

 その新将棋会館の予定設計図が2年前に棋士たちに提示された。理事室、事務局、記者室、道場などのほかに、対局室は10室以上で、特別対局室や椅子対局室、防音対局室があった。

 棋士たちは、ある場所に注目した。それはトイレである。

 どの対局室からも15秒以内で行けるので、残り時間が切迫していても余裕を持てそうだ。ただ特別対局室は奥にあって少し離れている。現将棋会館の特別対局室のように、個別にトイレを設けたほうが安心という声が出た。

 現会館の4階の対局室は、特別対局室、3室による大広間、2室の別間に分かれている。それらの部屋に囲まれたような場所にトイレがある。どの対局室からもすぐに行ける、という事情による設計だった。

 ちなみに、現会館(5階建て・地下1階)には女子トイレが計4カ所ある。1976年に建設された当時、女流棋士と女性ファンは現在よりかなり少なく、それほど必要ないという声があった。しかし、将棋連盟の理事として設計に関わった大山康晴十五世名人は、「いずれ多くの女性たちが会館を訪れる」と主張した。その考えは現実のものとなっている。

 藤井聡太七冠(22)や羽生善治九段(53)、渡辺明九段(40)など、今ではABEMAなどでトップ棋士の長時間にわたる対局中継が目にできるようになった。その際、棋士が食事以外でも席を外す場面を目にすることがあるかと思うが――その理由の1つがトイレである。

 棋士は対局中に手番に関係なく、中座していつでもトイレに行ける(自分の手番だと持ち時間がその分だけ減る)。それは前述したように、生理的な理由だけではない。閉ざされた空間は、高ぶった気持ちを静めたり、逆に「がんばるぞ!」など独り言をつぶやいて戦意を高揚させるのに、絶好の場なのだ。

 私こと田丸も現役時代、局面を冷静に見たいとき、勝敗につながる決断の一手を指したいときは、トイレに行って気持ちを整えたり、後に引けない心構えを決したものだ。ある人に「平静さを欠いたら、トイレで自分の陰嚢を指で包み込めば一時的に落ち着く」と言われ、実際に試したこともあった。

 トイレに行くタイミングも勝負の節目になっている。

 対局者は形勢が好転したとき、好手を発見したときは、得てしてトイレに行くものだ。小声でぶつぶつ言いながら足早に席を立ったときは、それが顕著である。

 本心と見かけの態度は別なのだ。私も内心にんまりとしながら、困ったような表情で席を立ち、トイレで勝勢を確認したことがあった。逆に敗勢になって勝負がついたとき、トイレで自分の負けを言い聞かせ、対局室に戻って投了したこともあった。