文田、涙は笑顔に 「ハイブリッド」で快挙―レスリング〔五輪〕
40年ぶりの金メダルを獲得した文田の軌跡に迫る。
父の教えを胸に刻んだ豪快なレスリングスタイルからの変化、そして自信を取り戻した一戦。
苦しみを乗り越え、最高の景色を手に入れた文田の感動的なストーリー。
涙した東京の決勝から3年。
マット上には日の丸を身にまとい、笑顔でウイニングランをする文田がいた。グレコローマンスタイルの日本勢では40年ぶりの金メダル。「思い返せないぐらいたくさんの苦悩や葛藤があった。本当の頂に立った」。思いを込め、マットの中央で天に向かって人さし指を立てた。
曹利国(中国)との決勝は「最終的に行き着いた自分のレスリングの全てが出た」。3―0で迎えた第2ピリオド。消極的姿勢による警告で1点を失っても粘った。不利な体勢で再開された寝技で耐えてリードを守る。結果は4―1でも、内容的には完勝だった。
山梨・韮崎工高の監督を務める父敏郎さんの教え「投げてなんぼ」の精神で、豪快なレスリングが信条。東京五輪後、勝つためにそのスタイルを変えた。代名詞の反り投げを封印し、勝負に徹した。
「練習も試合も楽しくなかった」と振り返る期間。だが、地道な努力は実を結んだ。昨年の世界選手権決勝で投げを「解禁」。世界王者のシャルシェンベコフ(キルギス)と接戦を演じると、敗れたものの、今までになかった感覚が芽生えた。「自分がやりたいレスリングをそのままやろう」。攻守に強い「ハイブリッド」と表現するレスリングが確立された瞬間だった。
「今回の結果でもう一段階、自信がついた。やってきて正解だった」と胸を張った文田。何度も味わった苦しみが、最高の景色につながった。