男子バレー涙の円陣…小野寺の手招き、小川の頭をポンポン「史上に残る壮絶な試合だった」パリの“観客席”で見た夢のような景色とジャポンコール

AI要約

日本代表が五輪準々決勝でイタリアを相手に奮闘する中、準決勝進出が目前に迫る激戦が繰り広げられた。

日本チームの守備力、セッターのプレー、エースの石川祐希の活躍などが試合を盛り上げたが、最後の1点を取ることができずに惜敗した。

勝利まであと1歩のところでの敗北にチームも観客も残念がった展開だった。

男子バレー涙の円陣…小野寺の手招き、小川の頭をポンポン「史上に残る壮絶な試合だった」パリの“観客席”で見た夢のような景色とジャポンコール

“あと1点”がこれほど遠いとは。

 個の力と組織力を兼ね備えた史上最強のこのチームでも、オリンピックベスト4への壁を超えることはできないのか――。

 パリ五輪準々決勝イタリア戦・第3セット24-21。五輪で52年ぶりのメダル獲得を目指す日本代表が、2022年世界選手権王者イタリアを追い詰めた。あと1点で準決勝進出が決まる。日本はそこに立つにふさわしい戦いぶりだった。

 だが勝負の世界は残酷だ。それを思い知らされた、一生記憶に残るであろう試合になった。

 普段バレーボールの国際大会を取材していても、フリーランスの記者は五輪の取材パスを手に入れることが難しく、今回も現地で直接選手に取材することはできない。それでもこのチームの集大成の戦いを目に焼きつけたくて、パリに向かった。

 準々決勝・イタリア戦は、ほぼ完璧な出だしだった。

 日本の生命線である守備がハマった。全員がボールに食らいついたが、特に会場を沸かせたのはリベロの山本智大だ。当たり前のように相手のスパイクコースにいて、ことごとく拾う。得点を決めたのはスパイカーだが、山本の得点だと言ってもいい場面がいくつもあった。

「なんなんだ? アイツは」

 そう言わんばかりに、山本が拾うたび観客はどよめく。好守備からラリーになると、「このラリー、どっちが取るんだ?」と会場にワクワク感が充満し、日本がラリーを制すると興奮が爆発する。観客はどんどん日本チームに惹き込まれていった。

 会場であるサウス・パリ・アリーナには、日本代表の赤い応援Tシャツを着たファンもいたが、思っていたほど日本人の観客が多い印象ではなかった。それでも自然と“ニッポンコール”が沸き起こる。

 セッター関田誠大のトスも冴え渡った。相手ブロックを1枚にするケースが多く、スパイカー陣が小気味よくスパイクを叩き込んでいく。“あえてそこ”の強気なトスも光った。高橋藍がサーブレシーブで体勢を崩されても、ブロックがマークを外すことを想定し、あえて上げる。決め切った高橋も笑っていた。

 そして何と言っても石川祐希だ。予選ラウンドではどこか乗り切れず、もどかしそうに見えたエースは、本来の姿を取り戻していた。相手サーブに狙われても、きっちりと返してサイドアウトを重ね、たとえサーブレシーブを崩されても、自ら得点につなげる。

 試合後スタンドで会えたスタッフ陣に話を聞くことができたが、深津貴之コーチは試合前から石川の変化を感じていたという。

「予選ラウンドの時は不安そうな顔だったんですけど、今日は朝のミーティングの時からもう全然、目が違いました。吹っ切れた感じでした」

 第1セット6-7から、石川が多彩な持ち技を駆使したスパイクで3連続得点を奪い9-7とリードすると、セッターの関田とガッチリ抱き合った。関田の中で「今日は祐希に託そう」と腹が決まったのかもしれない。

 勝負所や、ここでラリーを取ればチームが乗れるという場面で、関田は石川に託し、エースは決め切り自信を取り戻していく。豪快にサービスエースを奪い、気迫あふれる雄叫びで周りを巻き込む。誰もが待ち望んだ、“これぞ石川祐希”という姿で、チームを牽引した。

 日本は個々が役割を果たして2セットを連取し、王手をかけた。第3セットは終盤追い上げられるが、石川が連続でスパイクを決め24-21と引き離し、ついにマッチポイントを握った。

 あと1点で準決勝進出。観客は総立ちになり、試合が決まるその瞬間を見守った。もちろん筆者も、ついにその時が来たのだと身震いしながら立ち上がった。

 そこからイタリアがサイドアウトを取り24-22。次だ、と会場のボルテージはもう一段高まった。

 しかし3枚ブロックの指先を狙った石川のレフトスパイクはわずかに浮いてアウトとなり24-23。さらにイタリアのセッター、シモーネ・ジャネッリのジャンプサーブが石川と山本の間に突き刺さり24-24。デュースに持ち込まれた。