ヴェルディの攻めるクラブ経営 シンガポール、ベティスとの提携に中村社長が思い描く海外戦略

AI要約

東京ヴェルディがJ1復帰後の成長と国際展開について取り上げられている。新たな取り組みとして、シンガポールやスペインのクラブとの親善試合やパートナーシップを結んでいる。

中村社長はクラブの国際戦略について語り、成長と競争力向上を目指して海外展開に積極的であることを示唆している。

東京ヴェルディはJ1リーグに復帰し、国際的な視野でのクラブ運営を通じてアジアを代表する総合クラブを目指している。

 16年ぶりのJ1復帰で注目される東京ヴェルディが、上昇気流に乗っている。

 城福浩監督に率いられたチームは「20チーム中20番目」との下馬評を覆し、第24節を終えた時点で20チーム中9位と大健闘している。そのピッチ上の話だけでなく、クラブ運営の面でも“飛び出した”攻めの姿勢を強めている。

 ■ソシエダ、ブライトンと親善試合

 シーズン途中の5月29日に日本代表MF久保建英の所属するレアル・ソシエダード(スペイン)と東京・国立で対戦。さらに7月28日には三笘薫の所属するブライトン(イングランド)と同じく東京・国立で戦う。これらマッチメークだけではなかった。

 6月にはシンガポール文化社会青年省の法定機関「スポーツシンガポール(SportSG)」と覚書を締結している。同国が推進するサッカーの水準向上を目指す国家プロジェクト「Unleash the Roar!(UTR!)」に関わり、シンガポールから2人のコーチをトップチームの研修コーチとして12月10日までの期間で受け入れた。

 そして7月23日、スペイン1部リーグで近年上位をキープしているレアル・ベティスとのパートナーシップ提携も結んだ。両クラブの事業及び競技面のさらなる発展を目的とし、主に次の5項目を掲げている。

 1)日本及びスペインでのブランド拡大のための協業

 2)スポンサーシップ、プロモーション、マーケティング、マーチャンダイジング領域における協業

 3)社会環境アクションにおける協業

 4)サッカー及びその他スポーツイベントでの協業

 5)サッカー領域における協業及び情報交換

 東京Vが次々と打ち出す一手。J1復帰のタイミングに歩調を合わせるかのように、海外に目を向けたクラブ経営を推し進めている。ヴェルディの目指すものとは-。

 「アジアを代表する総合クラブへ」との野心を抱く中村考昭社長に、その国際戦略について話を伺った。

 ■フットボールクラブとしての成長へ

 -海外との取り組みを積極的に進めていますが、どういう経緯でしょうか?

 「経営も成長フェーズに入ってくるのに従い、海外との取り組みを加速させたい。事業サイド、フットボールサイドも含めて広くアプローチしています。大きくは2方面。フットボールの先進エリア、ヨーロッパ方面においてフットボールクラブとしての成長を実現していくための取り組み。それともう1つは、特に東南アジア方面をマーケットとして模索しています。これらを包含しているのがシンガポールです。フットボールサイド、事業サイドもそうですが、クラブのブランティング、マーケティングな観点も含めて横断的な可能性の中で、シンガポール政府との取り組みを始めています」

 -また、国際親善試合を積極的に行っていますが

 「ヴェルディに限らず試合の打診はJ1クラブには色々な形で入っていると思います。ヴェルディだけが個別に何か特殊な状況にあるのでなく、いろいろな声掛け、チャンスがあると思いますが、その中でやる、やらないの判断があると思います。海外クラブは日本を大きな市場として見ていて、どう開拓していくのか、という文脈で見ている。ヴェルディはそれを主体的につかみ取りに行っています」

 -Jクラブが海外を見ていくことは必要なことでしょうか?

 「必要か、必要でないかを超えて必然なものだと捉えています。サッカーはグローバルなスポーツ。選手は普通に海を越えて移籍している中で、クラブだけが1カ国、地域にのみ閉ざして存在するのはあり得ない。その環境を、ボーダーレスな環境でどう振る舞っていくのか。必然的なものを少しずつやれるようになってきている。今までもそういう機会が目の前を通っていたのかもしれませんが、つかみにいくだけの余力、組織的なもの、判断、志向の差によって、目の前にある可能性を顕在させていなかった。過去もたくさんあったと思いますが、ヴェルディはやっていなかった。それを今はやりにいっています」

 -クラブ間での動きも始まっているようですが、そちらはどういう考えがあるのでしょうか

 「提携はJのクラブに色々とあります。比較的、日本側のクラブがお金を含めたアウトプットを先方にお支払いするなりして、そのアウトプットをもとに得られた関係によって機会が生まれ、それを日本のクラブがどう活用するのか? という文脈が多いと思います。でも、私はその順番で考えていません。ヴェルディが成長するために、グローバルクラブになっていくために何が必要なのか? そのために先にアウトがあるわけでなく、クラブにとってのインというか、金銭的にも機会的にも、クラブに対しての成長の機会として得られるものを先に得ていて、その結果、クラブが成長なりバリューアップすることでより大きなアウトプットが出せるようになるという順番で判断しています。アウトありきではありません。いろいろな取り組みをしているものは、金銭的にもフットボール的にもリターンがあって、得ながら我々も成長していく」

 ■16年ぶりJ1返り咲きの意味大きい

 -シンガポールからコーチが研修に来ています。これはどういう状況でしょうか?

 「コーチ2名と通訳1名の3名。ヴェルディの育成も含めた在り方、経営、チームへの評価があって、シンガポールの育成強化について取り入れたいというのがシンガポール側の狙いです」

 -シンガポール代表監督の小倉勉さん(昨季まで東京Vヘッドコーチ)も関係しているのでしょうか?

 「それぞれは別の判断のもとだとは思いますが、結果的に小倉さんが監督になったことはヴェルディにとってプラスに働いています」

 -それ以前にシンガポールとのつながりはなかった?

 「なかったです。純粋にヴェルディの育成も含めた先輩が積み上げた過去の実績と、今のヴェルディの両面が評価されたからだと思います。シンガポール側は色々と日本クラブをリサーチしていたと思います」

 -ヴェルディならそれに見合える、リクエストに応えられると?

 「そういう機会は他のクラブにもあったと思いますが、それを実現させるために踏み込んでアプローチしていくのか、それをニュートラルにみるのか、もしくは受け身的に待つのか。うちはアグレッシブに踏み込み、実現しに行っています」

 -クラブの体制として機は熟しています。J1の今だからチャレンジしやすかった?

 「間違いなくあります。機会があっても、こちらがアプローチしてもそうならないこともある。16年ぶりにヴェルディがJ1に返り咲いた。それはすごく大きな意味があるし、大きい」

 ■東南アジアに感じる大きなエネルギー

 -ほかに東南アジアではどういう取り組みを?

 「インドネシアでは、300人を超える子どもたちにサッカークリニックを開催しました。1つのマーケットとして考えていくと、教えるというサービスを広く社会に展開していく先としては、受講する人が多い国はいいと考えています」

 -東南アジアの現状を見て、どう感じていますか?

 「たまたま海外出張している時に、ベトナムにいたタイミングがありました。ベトナム代表が戦っていて、街のど真ん中でパブリックビューイングがあり交通封鎖までしていた。こんなに人がいっぱい集まるんだというくらい。見ている人が若くて、活気があって、にぎわいがあって、音楽やMCも爆音で。スタジアムじゃなくて街中です。日常的にそういう接点がある。それはものすごい活力、エネルギーであり、ベトナムに限らず、シンガポール、タイでも感じます。サッカーは人気があるし、愛されているし、熱狂するし、すごく楽しいというか盛り上がる環境が生まれるから必然的にそうなる。そこに競技レベルが上がればすごいことになる。ポジティブな成長マーケットがあります」

 -社長としての夢は何でしょうか?

 「ヴェルディを日本、アジアを代表するリーディングクラブにしたいです。それは私の夢というより、伝統あるヴェルディはそういうクラブであり、そうあるべきクラブだと思います。ヴェルディがそうなっていくために私が何かできるか、ということを考えています」

 ■サッカーに国境はない、世界へ出る

 日本経済は失われた30年と言われる。その同じ時間軸で歩んできたJリーグは32年目。10チームで始まったリーグは消滅クラブが出るなど紆余(うよ)曲折を経て、今や3部制の60チームにまで膨れ上がった。

 Jリーグの発展とともに日本代表は強くなり、多くの選手がJリーグをステップに海外へと飛び出すのが当たり前となっている。それは選手に限ったことでなく、クラブを経営する側の人材も同様だ。スポーツを愛し、外国語を操り、ビジネス感覚に長けた人材が集う。機は熟した-。

 ヴェルディが思い描く国際戦略。サッカーを生業とするクラブの筆頭として、中村社長の回答はいたってシンプルだ。

 「私が思うサッカーはグローバルなフィールドに始めから存在している。そうじゃないアプローチはないと思っている」

 イギリスの伝説的な登山家、ジョージ・マロリーの「なぜ山に登るのか。そこに山があるからだ」の言葉がどこか重なる。

 サッカーに国境はない。むろんヴェルディは世界を目指していく。【佐藤隆志】