阿部詩の号泣に見た五輪柔道の怖さ 他競技と違う位置づけ、柔道にとって「五輪は命がけ」の理由

AI要約

五輪柔道での金メダルに向けた選手の熱い想いや戦略について語られる。

五輪は柔道など特定の競技にとって最大かつ唯一の目標であることが強調される。

日本の柔道家たちは五輪に向けて命がけで努力し、金メダルを勝ち取るために全力を尽くす。

阿部詩の号泣に見た五輪柔道の怖さ 他競技と違う位置づけ、柔道にとって「五輪は命がけ」の理由

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 今回は連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。

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 号泣する阿部詩の姿を見て、五輪柔道の怖さを感じた。圧倒的な優勝候補とされて臨んだ大会だった。ところが、過去2戦2勝のケルディヨロワ(ウズベキスタン)に一本負け。間合いを詰められ、谷落としで敗れた。しばらく立ち上がれないほどのショック。見ているこちらまで胸を締め付けられるような光景だった。勝ち続けることの怖さを見せつけられた思いだった。

 柔道など格闘技では、相手選手の研究は特に重要。東京大会の金メダルラッシュの裏には、日本チームの徹底したライバル分析があった。もっとも、研究をするのは日本だけではない。世界中の選手が、研究を尽くし、戦略を練る。すべては五輪で勝つために。

 加納治五郎が興した「講道館柔道」は、1964年東京大会で五輪の仲間入りをして世界に広まった。多くの柔術、格闘技の中から柔道が世界的なものになった背景には五輪の力がある。だからこそ、柔道の世界で五輪は特別な存在であり続ける。

 柔道着に縫い付けるゼッケンは青字だが、直前の世界選手権優勝者は赤。五輪金メダリストは金色をつけることが許される。4年間、どんな場面でも「金メダル」を背負う。世界中の選手が五輪を目指し、金メダルをとることだけに照準を合わせる。

 スケートボードやサーフィンなど「五輪だけが目標ではない」競技も増えた。サッカーのように「五輪は若者の大会」の競技もある。テニスやゴルフは重要な大会が別にもあるし、陸上や競泳なら世界記録という異なる目標もある。球技なら海外の強豪チームに加入し、世界的に活躍する夢を抱く選手も増えてきた。

 しかし、柔道は五輪が最大にして唯一の目標だ。すべてのベクトルが五輪に向いていると言ってもいい。特に五輪メダリストが多い日本の場合、町道場で柔道をはじめた子どもたちもみな「夢は金メダル」と声をそろえる。「命がけ」「人生のすべて」と悲壮感すら漂う。阿部が号泣したのも、金メダルへの思いが強かったからだ。