スペインが“圧倒的な強さ”で頂点に立てた理由とは――「代表レベルでも、攻撃をタレント力だけに頼る“堅実路線”では不十分の時代が来た」【EURO2024コラム】

AI要約

スペインが力の差を見せつけてイングランドを下し、優勝を果たした。フランス戦での成功した戦術を踏襲し、スペインはビルドアップに課題を抱えたものの、後半開始直後の先制点で流れをつかんだ。

ロドリの負傷による交代でスペインはビルドアップ戦術を微調整。スビメンディとファビアンの参加でユニットが増え、攻撃の幅が広がった。

イングランドは修正を加え、スペインのビルドアップを制約するも、中盤の薄さが露呈。スペインはロングボールを活かして中盤のスペースを突く攻撃を仕掛けた。

スペインが“圧倒的な強さ”で頂点に立てた理由とは――「代表レベルでも、攻撃をタレント力だけに頼る“堅実路線”では不十分の時代が来た」【EURO2024コラム】

 前半こそ、両チームともに決定機らしい決定機がゼロという膠着した展開だったものの、後半立ち上がりに先制してからは、スペインがペースを握って試合をコントロール。イングランドも終盤にコール・パーマーのゴールで一矢報いたものの、最後には力の差を見せつけられた。スペインは直近5大会で3度目の優勝(通算4度目)。その中でも今回のタイトルは最も説得力に満ちたものだった。

 イングランドは、前線からのプレスは放棄してスペインにボールを持たせつつも、中盤のキーマンで司令塔ロドリにフィル・フォデンをマンツーマンで貼り付ける対策でパスルートを制限し、ビルドアップとポゼッションの質を落とすことに成功した。

 スペインの2CBにボールを持たせる代わり、ハリー・ケインが縦パスのコースを切り、スペースに動きながらパスを引き出そうとするロドリをフォデンが封じることで、スペインはサイドを使うかロングボールを蹴るかという対応を強いられた。

 4ー4ー1ー1のブロックをミドルゾーンに敷くイングランドの守備戦術自体は、準決勝でスペインと当たったフランスも同じように採用していたが、ロドリへのマンマークというフランスにはなかったプラスアルファが効果を発揮した格好だった。

 タクティカルで動きの少ない展開のまま0ー0で前半が終了。しかし、スペインはほかでもないロドリが負傷のため、ハーフタイムに交代を強いられるアクシデントに見舞われた。ただ、この交代がもたらした戦術的な微調整が後半開始直後の先制点につながったのだから、サッカーはわからない。

 スペインのビルドアップは、第1列を2CB(ロビン・ル・ノルマン、エメリック・ラポルト)で形成し、第2列は中央にロドリ、開いた位置に左右SBがポジションを取る2+3(時には4+1)のユニットを基本としてきた。中央のゾーンでは、相手のプレス2枚に対して2CBとロドリが3対2の数的優位を作り出してプレスを回避し、ロドリを起点に前線にボールを送り込むという設計である。

 これが機能するのは、ロドリが絶妙なポジショニングで2CBとパスを交わすことで3人のうち誰かがフリーで前を向ける形を作り出すからだった。しかしそこが封じられたことで、前半はビルドアップとポゼッションの機能性が低下し、ほとんどチャンスが作り出せずに終わった。

 そのロドリを下げざるを得なくなった後半、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、ロドリとの交代で入ったマルティン・スビメンディに加え、前半はトップ下のダニ・オルモと並ぶ形で敵中盤ラインの背後にポジションを取っていたファビアン・ルイスも、1列下げてビルドアップに参加させた。これで2CBからのボールの出口はひとつ(ロドリ)から2つ(スビメンディとファビアン)になったわけだ。

 その形でスタートしたキックオフ直後のアクション、スペインは1分間にわたってボールを回した後、第1列の右寄りに流れてフリーになったファビアンを経由して、スペースのある右サイドに展開。縦パス2本で右WGラミネ・ヤマルが前を向いて仕掛ける形を作り出した。

 ヤマルがドリブルで中央に持ち込むのに合わせて、ダニ・オルモとアルバロ・モラタが裏のスペースをアタックし、イングランドの最終ライン4人全員を中央に引きつける。その時点で大外からフリーで走り込んできたニコ・ウィリアムスは完全にフリー。ヤマルからのラストパスを落ち着いてファーポスト際に流し込んだのだった。

 後半開始直後で、スペインの配置変更に対してイングランドが対策を打つ前のタイミングで決まったこの先制ゴールが、試合の大きな流れを決定づけることになった。イングランドはこの後、フォデンに加えてコビー・メイヌーも前に出し、スビメンディとファビアンを2人で見る修正によって、改めてスペインのビルドアップを制約するようになる。

 しかし、それによってイングランドの重心が上がって中盤が薄くなり、陣形も間延びしがちになったことで、スペインはロングボールも適宜交えながら、中盤に1人残ったデクラン・ライスの左右のスペースを使って攻勢に出る場面を作り始めた。48分にダニ・オルモ、55分から56分にかけてモラタ、N・ウィリアムス、66分にヤマルがシュートを放った場面がその典型だ。