フランス代表の堅守に風穴を開けたスペイン代表の22歳差コンビ。ラミン・ヤマルがみせた工夫とは?【ユーロ2024分析コラム】

AI要約

ユーロ2024(EURO2024)準決勝、スペイン代表対フランス代表の試合を要約すると、スペイン代表が2-1で勝利を収めた。

スペイン代表はフランス代表の堅守を攻略し、ナバスやヤマルという異色のコンビが活躍した。

このユニークな組み合わせがフランス代表を破り、決勝進出につながった。

フランス代表の堅守に風穴を開けたスペイン代表の22歳差コンビ。ラミン・ヤマルがみせた工夫とは?【ユーロ2024分析コラム】

 UEFAユーロ2024(EURO2024)準決勝、スペイン代表対フランス代表が現地時間9日に行われ、スペイン代表が2-1で勝利を飾った。今大会を通してフランス代表はPK以外で失点を喫していなかったが、この堅守をスペイン代表はどのように攻略して決勝への切符を手繰り寄せたのだろうか。(文:安洋一郎)

●スペイン代表がフランス代表を下して決勝へ

 ユーロ2024(欧州選手権)も佳境に迫り、優勝の可能性はベスト4に名を連ねたスペイン、フランス、イングランド、オランダの4ヵ国に絞られた。

 その中で先に顔を合わせたのが、それぞれ優勝候補のドイツ代表とポルトガル代表に勝利して準決勝まで勝ち進んだスペイン代表とフランス代表の両国だ。共に準々決勝では延長戦まで戦うなど、フィジカル的な消耗が激しい状況にて、中3日でこの大一番を迎えている。

 試合前からポイントになると予想されていたのが、スペイン代表の右サイドとフランス代表の左サイドの攻防だ。本来はダニエル・カルバハルとロビン・ル・ノルマンが右SBと右CBの一番手だが、両者ともにドイツ代表との準々決勝でカードを受けてしまい、この試合はメンバー外に。ナチョ・フェルナンデスとヘスス・ナバスのベテランコンビがその穴を埋める必要があった。

 特に不安視されていたのがヘスス・ナバスとフランス代表の左WGであるキリアン・エンバペのマッチアップで、スピード対決となれば前者の分が悪いのは明らか。今大会を通してカルバハルのパフォーマンスは高く、彼の冷静な守備に何度も救われていた過去を踏まえると、38歳のベテランSBへの負担が大きくなると予想されていた。

 しかし、この不安とは裏腹にスペイン代表の右サイドは弱点になるどころか、フランス代表に致命傷を負わせることになる。

●38歳ヘスス・ナバスの奮闘

 8分の失点シーンこそエンバペにクロスを上げられてしまったヘスス・ナバスだが、ベンチへと下がる58分までのパフォーマンスは素晴らしかった。

 累積警告で欠場となったカルバハルと同じように内側に絞っての対応が冴えており、カウンターの場面でエンバペに抜け出された7分のシーンでは、先にコースを読み切ってスライディングでランダル・コロ・ムアニからのパスをカットしてピンチの芽を摘んだ。

 14分にイエローカードを受けたことで、パフォーマンスに影響が出ると思われたが、その後もベテランらしく冷静に対応。セットプレーからピンチを迎えた40分のシーンでは、フランス代表が試合を通して狙っていたファーサイドへのクロスをヘディングでクリアし、カルバハルと遜色ない粘り強い守備でチームを救った。

 ナバスは守備で後手を踏まないどころか、攻撃参加でも違いを作り、25分に生まれたダニ・オルモのゴールの起点となるクロスを入れたのは彼だった。

 試合前は不安要素だったスペイン代表の最年長出場記録を更新し続けるベテランSBが攻守に活躍できたのには理由がある。

●38歳を支えた16歳ラミン・ヤマルの工夫

 その理由こそ、ナバスがセビージャでプロデビューを飾った4年後の2007年に生まれた右WGラミン・ヤマルの存在だ。

 21分に今大会のベストゴール候補筆頭に挙げられるだろう豪快なミドルシュートでユーロの最年少得点記録を大きく塗り替えた神童は、このゴールシーン以外にも素晴らしい活躍を披露している。

 守備では最終ライン近くまで戻り、時にはダブルチームで相手の左WGとマッチアップ。ナバスが怪我のためにベンチへと下がり、右CBで先発出場していたナチョが右SBにポジションを移して以降も運動量を落とすことなく対応し、チーム最多となる3つのタックルを成功させた。

 保持の局面では縦関係でコンビを組む選手がカルバハルから大外のレーンでのプレーを好むナバスに代わったことで、これまでの試合とは違った工夫をみせる。

準々決勝までは基本的に大外で張って勝負をしていたが、フランス代表戦では内側のレーンに絞ってライン間でボールを引き出すプレーを織り交ぜることで、相手の守備の基準をズラし、自らに視線を食いつかせてナバスが上がるスペースを作り出していた。

 それが功を奏した場面が25分の追加点のシーンだ。大外から内に絞るアクションで相手のマークにズレを作ると、縦関係となったオルモにパスを通し、最後は大外でフリーのナバスへボールが渡った。ベテランSBは対峙したテオ・エルナンデスを抜ききらずに鋭いクロスを相手GKとDFの間に通すと、そのクリアボールを拾ったオルモが見事な個人技から右足を振り抜いた。

 スペイン代表の最年少得点者と最年長出場者による異色の組み合わせは、準々決勝までPK以外で失点を喫していなかったフランス代表の堅守に風穴を開けた。恐らく決勝では出場停止処分が明けるカルバハルとヤマルの縦関係に戻るだろうが、フランス代表を攻略した22歳差のコンビが準決勝の大舞台でみせた好連係は伝説として後世に語り継がれるだろう。

(文:安洋一郎)