悩みの種。サンフレッチェ広島が「優勝を狙うならば…」。満田誠の左WB起用は何を生み出すのか【戦術分析コラム】

AI要約

サンフレッチェ広島はミヒャエル・スキッベ監督の確固たるスタイルで勇猛果敢なサッカーを展開しており、攻撃の起点は中野就斗にある。

チームは【3-1-5-1】の形でプレーし、セントラルハーフが縦関係で攻撃をサポートし、満田誠の左WB起用も試されている。

広島はハイテンポかつ堅実なプレースタイルを貫き、結果への近道はチームの哲学を貫くことにある。

悩みの種。サンフレッチェ広島が「優勝を狙うならば…」。満田誠の左WB起用は何を生み出すのか【戦術分析コラム】

 ミヒャエル・スキッベ監督が植え付けた確固たるスタイルの下で、サンフレッチェ広島の選手たちは勇猛果敢なサッカーを展開している。魅力あふれるスタイルを貫きながら、結果を追求するためには、何が必要なのか。戦術を分析しながら、その哲学と結果の共通集合を探っていく。

(文:らいかーると)

著者プロフィール:らいかーると

1982年、浦和出身。とあるサッカーチームの監督。サッカー戦術分析ブログ「サッカーの面白い戦術分析を心がけます」主宰。海外サッカー、Jリーグ、日本代表戦など幅広い試合を取り上げ、ユニークな語り口で試合を分析する人気ブロガー。著書に『アナリシス・アイ ~サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます~』『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』がある。

●ボール保持の型。マルコス・ジュニオールではなく加藤陸次樹

 ボール非保持がデュエルに負けないことを軸にしていることもあって、ボール保持でもデュエルに負けないことがベースになっている。配置のかみ合わせによって、他のポジションよりも時間とスペースを得られそうなポジションは、センターバックとウイングバックだ。

 一方でセントラルハーフや3FWは常に相手がそばにいる状況でのプレーを受け入れている。周りとの関係性で足し算ではなく掛け算でチームに貢献できるマルコス・ジュニオールや満田誠よりも、相手が側にいても関係ない加藤陸次樹や大橋祐紀が優先的に起用される理由のひとつだろう。

 サンフレッチェ広島の攻撃は、ほとんど中野就斗を出発点としている。開幕当初こそは右ウイングバックでクロスをあげたり、大外からゴール前に侵入していたりした中野だが、荒木隼人の離脱によって、3バックの中央でプレーすることとなった。

 広島のセンターバックに必要な対人能力を兼ね備えているだけでなく、荒木にはない精度の高いロングボールを蹴られることが中野の最大の特徴となっている。また、大迫敬介もゴールに直結するようなキックを持っていることも忘れてはいけない。

 広島の攻撃の優先順位は、相手の背後にためらいもなくボールを届けることだ。加藤と大橋にウイングバックを添える形でセカンドボール回収やハイプレッシングを即座に発動できるようにデザインされている。

 また、ウイングバックのサイドチェンジから大橋や加藤とウイングバックがコンビネーションでサイドを攻略してシンプルなクロスまで持っていくことも得意技としている。加藤や大橋がポジションを下げればウイングバックや余っている前線の選手は裏抜けを行う動きも標準装備されていて、単純なロングボール攻勢ではないところが広島のロングボール戦術を支える要素になっている。

●実際には【3-1-5-1】。騒がしいセントラルハーフの役割

「だったら中野だけはマンマークをすればいいじゃん」となるが、塩谷司と佐々木翔がボールを運べないなんて都合のいいことは起きない。彼らの位置からサイドチェンジが発射されることもある。東のいる左サイドはシンプルなクロスやサイドチェンジが多い一方で、新井のいる右サイドは塩谷のサポートを得ながら多人数による崩しになることも特徴と言えるだろう。

 ショートパスによる前進を実行するときのキーマンはやっぱり加藤と大橋で彼らが塩谷たちからのボールをあらゆる場所で背負ってポストワークをこなせることによって、相手陣地に侵入していくことができている。

 そんなサンフレッチェ広島のなかで騒がしいポジションがセントラルハーフだ。セントラルハーフは横関係ではなく、縦関係が通常の形となっている。おそらくはセカンドボール回収、動き回る加藤たちのスペースメイクに対するスペースアタックを狙っているのだろう。

 実際には【3-1-5-1】のような形になり、セントラルハーフの進出によって、加藤たちが自由に動き回り、列を降り、サイドに流れてもゴール前の枚数が足りなくならない段取りになっている。前線に飛び出してく役割を得意としている選手は松本泰志だ。もともとはトップ下のような選手だったが、加藤と大橋の自由奔放さへのバランスの維持と飛び出しでチームを支えている。

 ただし、あんまり早く前に行き過ぎてしまうと、広島のビルドアップ隊が【3-1】のみになってしまい、中央圧縮からのサイドへの誘導で選択肢がなくなることもしばしばであった。実際にボールを受けるかどうかは別にして、相手の配置によっては、【3-2】になることで、相手をひきつけて味方に時間とスペースを与えることも大切になってくる。このあたりの臨機応変さは実は自分たちの形を守ろうとする哲学と相反する部分もあり、広島を悩ませるポイントになっていきそうな雰囲気はある。

●哲学と結果。満田誠の左WB起用は何を生み出すのか

 アルビレックス新潟戦であまり記憶にない満田の左ウイングバックが試された。東に比べると、シンプルなクロスやサイドチェンジが少ないけれど、満田らしい仕掛けや果敢なプレッシングによって違いを見せることはできていた。試合に出ることでコンディションをあげていく世界なので、試合出場機会を考えると、満田の左ウイングバックは大いにありだろう。セットプレーのこぼれ球を拾い弾丸ミドルやマンマークのプレッシングに必要な相手を追いかけ回す動きも標準装備されていることは大きい。

 広島はハイテンポな展開を志向している。相手陣地にボールを送り続け、シンプルなクロスを連打し、相手陣地ではハイプレッシングを行う。必然的にトランジションの回数は増え、見ごたえのあるデュエルが繰り返される試合はエンターテイメントとしてのクオリティも高いのではないだろうか。

 一方で、自分たちの戦い方がきっちりしているため、試合展開が不利でも、自分たちの形を貫き通す一面も持っている。対戦相手によってはボールを持たせて撤退したり、アルビレックス新潟のようにボール保持で試合をコントロールする相手にはマンマークをやめたりすることも大切になってくるだろう。あくまで優勝を狙うならば。しかし、自分たちが積み上げてきたことを捨てることは得策とは言えない。結局のところ、自分たちのサッカーを心から信じで誇りを持ってプレーすることは結果への近道であることは間違いないからだ。

 となると、ハイプレッシングのキーマンになっていく選手は左ウイングバックの満田かもしれない。逆サイドの新井はサイドバックでのプレーも問題なく、3FWは加藤を筆頭にプレッシングでは変幻自在の配置を取ることができる。セントラルハーフの加勢だけではなく、ウイングバックの加勢というオプションを手に入れることで、ハイプレッシングの形がさらに柔軟になっていけば、哲学を貫きながら結果も手に入れられるかもしれない。

(文:らいかーると)