体脂肪を燃やす「スイッチ」の役割を持つ「漢方薬」、研究でわかった、気になるその「メカニズム」

AI要約

東洋医学のメカニズム研究の最前線をとりあげた『東洋医学はなぜ効くのか』から、防風通聖散という漢方薬の効果について紹介。脂肪細胞との関係、体脂肪の減少メカニズムなどが研究されている。

防風通聖散に含まれる成分が脂肪細胞に作用し、体内でノルアドレナリンを分泌。これが脂肪細胞内の中性脂肪の分解を促進し、体脂肪を減少させるメカニズムが明らかになっている。

また、別の研究では、防風通聖散を与えると脂肪細胞の遺伝子UCP1の発現が増加し、白色脂肪細胞が代謝機能が高まることが示されている。

体脂肪を燃やす「スイッチ」の役割を持つ「漢方薬」、研究でわかった、気になるその「メカニズム」

 私たちにとって身近なツボや鍼灸、漢方薬。近年、そのメカニズムの詳細が西洋医学的な研究でも明らかになってきています。例えば「手のツボが便秘改善に効くとされるのはなぜ」「ツボに特徴的な神経構造が発見された?」「漢方薬が腸内細菌のエサになっている?」など、興味深い研究が数多く報告されているのです。最新の研究では一体どんなことが明らかになっているのでしょうか。

 東洋医学のメカニズム研究の最前線をとりあげた一冊、『東洋医学はなぜ効くのか』(講談社ブルーバックス)から注目のトピックをご紹介していきます。今回は、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)という漢方薬に注目してみましょう。脂肪細胞と深い関係があるようです。

 *本記事は、『東洋医学はなぜ効くのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

*漢方薬を服用する場合には、医師・薬剤師に相談し、決められた用法・用量を守ってください。

 今回紹介するのは防風通聖散です。抗炎症作用を持つオウゴンやボウフウ、鎮痛作用を持つシャクヤクなど18種類の生薬が含まれています。

 防風通聖散は、便秘や肥満などの改善に処方される漢方薬です。臨床試験では、肥満症患者の体重を減少させる効果などが報告されています。そのメカニズムについては大変興味深いものがありますが、その前に、まずお伝えしておきたいのは注意点です。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、効能の中に「肥満」というキーワードが入っているため、いわゆる「やせ薬」と勘違いして多用されるケースが後を絶ちません。しかし、副作用として、間質性肺炎や肝機能障害などのリスクがあるので、乱用は禁物です。漢方薬を服用する場合には、医師・薬剤師に相談し、決められた用法・用量を守ってください。

 さて、それではこれまでに行われたメカニズムに関する研究を見てみましょう。

 防風通聖散には、単なる肥満ではなく健康に障害を及ぼす肥満症の患者の体脂肪(皮下脂肪と内臓脂肪)を減少させる効果が、いくつかの臨床試験で確認されています。

 では、どのようにして、体脂肪が減少するのでしょうか。これまで主に研究されてきたのは、脂肪細胞への作用です。脂肪細胞には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞があり、白色脂肪細胞は、中性脂肪や糖などを取り込んでエネルギーとして蓄えています。また、褐色脂肪細胞は、脂肪を燃焼させて体温を保つ役割を持っています。

 動物を使った研究によると、防風通聖散に含まれるマオウの薬理成分であるエフェドリンが交感神経を刺激して、体内でホルモンのノルアドレナリンを分泌させます。このノルアドレナリンには、それぞれの脂肪細胞が持つはたらきをスタートさせる「スイッチ」の役割があります。

 白色脂肪細胞に作用すると細胞内に蓄えられた脂肪の分解が促進され、遊離脂肪酸が分離します。遊離脂肪酸は、体のエネルギーとして使われますが、一部は褐色脂肪細胞に取り込まれます。そして、褐色脂肪細胞では取り込んだ遊離脂肪酸を使って熱を生み出すはたらきが高まります。この2つの作用によって、脂肪細胞に含まれる中性脂肪などが減少し、体脂肪が減少することが確認されているのです。

 また、別の研究では、カンゾウなどに含まれる成分にエフェドリンによる脂肪分解促進を助けるはたらきがあることも示されています。

 さらに、マウスの遺伝子を調べた研究では、防風通聖散を与えると脂肪細胞のUCP1と呼ばれる遺伝子の発現が増加することも確認されています。UCP1は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアが熱を生み出す機能に関わる遺伝子です。この発現が増えると、白色脂肪細胞が“ベージュ化”し、褐色脂肪細胞のように熱をつくり出せるようになり代謝機能が高まります。

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