道しるべフェロモンを使わずに暗い夜でも巣に戻るアリ、謎を解明、動物で初の行動

AI要約

オーストラリア、シドニーの郊外で日が沈むと、キバハリアリの仲間であるMyrmecia midasが巣から木に向かって行進する。木に到着したアリたちはほかの生きものを攻撃し、樹液などを集め、夜明け前にそれぞれが戦利品とともに巣に戻る。

研究チームは、野生のキバハリアリが巣に戻るとき、フィルターを使って偏光パターンを回転させたところ、それに応じてアリが進む方向が変わることを示した。

キバハリアリはかなり攻撃的で、ほかの捕食者を阻止することもある。特に人間に邪魔されると。

道しるべフェロモンを使わずに暗い夜でも巣に戻るアリ、謎を解明、動物で初の行動

 オーストラリア、シドニーの郊外で日が沈むと、キバハリアリの仲間であるMyrmecia midasが巣から木に向かって行進する。木に到着したアリたちはほかの生きものを攻撃し、樹液などを集め、夜明け前にそれぞれが戦利品とともに巣に戻る。ほかの多くのアリと異なり、彼らは道しるべフェロモンのにおいを使わないようだ。

 そこで興味深い疑問が生じる。夜行性のキバハリアリたちは暗闇でどのように帰り道を見つけるのだろう? 「ずっと謎でした」と語るオーストラリア、マッコーリー大学の神経動物行動学者コディー・フリース氏らの研究チームが、6月11日付けで学術誌「eLife」にその答えを発表した。論文では、キバハリアリは月の偏光をナビゲーションに使っていると結論づけている。

 キバハリアリの目には、私たち人間には見えない空の模様が見えている。太陽や月による天空の偏光パターンだ。

 偏光とは振動の方向に偏りがある光で、天空の偏光パターンは、太陽や月の光が大気中の粒子で散乱して空いっぱいに描かれる。ずっと空に目盛りが刻まれているようなものだ。

 研究チームは、野生のキバハリアリが巣に戻るとき、フィルターを使って偏光パターンを回転させたところ、それに応じてアリが進む方向が変わることを示した。つまり、彼らは単に位置の記憶を頼りに進んでいるわけではない。

 さらに、キバハリアリは暗い三日月の偏光パターンですらナビゲーションに利用できた。満月の明るさは太陽のおよそ100万分の1で、三日月の明るさはその満月のわずか20%しかない。

 フンコロガシが月と星の偏光を使い、糞(ふん)玉を一直線に転がすことは知られている。だが、偏光した月明かりで巣という特定の位置に向かって移動することが示されたのは今回が初めてだ。ただし、どのように巣の位置を割り出しているかまではまだ明らかになっていない。

 この研究は、キバハリアリが極めて弱い月の偏光をナビゲーションに使って移動することを示した初めて記録だ。研究チームは以前から、月が関係していると予感していた。

「月が関係していることを示す大きなヒントは、満月のときは(空がはるかに暗い)新月のときに比べて、アリの数が20%増えることでした」とフリース氏は語り、近縁種であるMyrmecia pyriformisの先行研究に言及した。これは月明かりが強ければ強いほど、キバハリアリの目がよく見えることを示唆していた。

 興味深いことに、フリース氏によれば、最大25メートル近く移動したにもかかわらず、ほぼすべてのアリが巣に戻ってきたという。実際、フリース氏がキバハリアリを観察してきたなかで、迷子になったアリは1匹しかいなかった。

「彼らは1年以上生き、通常、毎日同じ木に通います」とフリース氏は話す。「そのため、少なくとも私から見れば、彼らは家に帰るのがとても上手です。道に迷うことはほとんどありませんし、補食されることもほとんどありません」

 キバハリアリはかなり攻撃的で、ほかの捕食者を阻止することもある。特に人間に邪魔されると。フリース氏によれば、最も大きなアリは体長2.5センチに達し、好奇心旺盛な科学者の手袋越しに毒針を刺すこともできる(フリース氏自身が経験している)。

「巣の近くで動き回っていると、彼らは狙いを定め、何メートルも追い掛けてきます」