メタボとがんの関係が次々と判明、食べ物など日々の選択で生まれる「劇的な」違いとは

AI要約

シャー氏はホジキンリンパ腫を患い、食事が治療に果たす役割の重要性に気づき、栄養や生活習慣ががんのリスクに与える影響に注目するようになった。

メタボリックシンドロームや炎症反応ががんの発症と進行に関連しており、遺伝子だけでなく代謝を調節する遺伝子変異もがん治療のターゲットとなっている。

科学者たちはがん細胞の代謝が異常であることを認識し、がん細胞の代謝を修正することで新たな治療法を探る可能性を模索している。

メタボとがんの関係が次々と判明、食べ物など日々の選択で生まれる「劇的な」違いとは

 血液腫瘍学の研究員として働いていたころ、ウルビ・シャー氏はホジキンリンパ腫と診断された。健康な免疫反応にとって不可欠なリンパ系のがんだ。4カ月にわたる集中的な化学療法によって病気は治ったが、こんな疑問を抱くようになった。がんを治すうえで、食事はどのような役割を果たしたのだろうか。

「家族や友人からは、食べていいもの、いけないものについてたくさんの助言をもらいましたが、そのとき私は、医学部の授業では治療に栄養が果たす役割について何も教わらなかったと気づいたのです」とシャー氏は言う。

 食物繊維の多い植物性食品ががんの発生率や再発のリスクを下げるという証拠に興味を引かれたシャー氏は、栄養、肥満、糖尿病、マイクロバイオーム(微生物叢)といった、改善が可能ながんのリスク因子に焦点を当てることにした。米スローン・ケタリング記念がんセンターの助教である氏は現在、がん患者に栄養面の指導をする食事介入の研究に取り組んでいる。

 肥満、糖尿病、高血圧、高コレステロール、高中性脂肪をはじめとする代謝性疾患が、多くのがんの発症と進行にとって重要ではないかと示唆する研究は増え続けている。米国では、ウエストサイズや血糖値など、上記の症状に関わる5項目のうち3つ以上が基準値から外れると「メタボリックシンドローム」と判定される(編注:メタボリックシンドロームの診断基準は日米で異なる)。

 米国ではメタボリックシンドロームの人の割合は数十年前から増加傾向にあり、欧米型の食生活と体を動かさないライフスタイルが大きな要因だと言われている(編注:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所「健康日本21分析評価事業」によれば、日本でも近年はメタボリックシンドロームの該当者および予備群が増える傾向にある)。

 アルコール、精製された炭水化物(小麦粉、白米、砂糖などの「白い」炭水化物)、脂肪を多く含む食品を取り過ぎたり、ソファに寝転んだりデスクに向かったりして過ごす時間が長いと、炎症反応が引き起こされ、やがてDNAの損傷につながる。そしてDNAが傷つくほど、正常な細胞ががん化する可能性は高くなる。

 これまでは、がんは遺伝子の変化が原因で起こる病気だという見方に基づき、特定の遺伝子変異をターゲットとする治療法が開発されてきたと語るのは、米シーダーズ・サイナイがん・ライフスタイル統合研究センター所長のスティーブン・フリードランド氏だ。

「しかし現在では、がんは特有の代謝ニーズを持つ代謝性疾患であり、がんで起こる遺伝子の変化の多くが代謝を調節していることがわかっています」と氏は言う。

 国際がん研究機関(IARC)の推計によると、2022年には世界で新たに約2000万件のがんの症例が発生し、970万人が死亡した。多くの高所得国では、がんは心臓病を上回って死亡原因の1位となっている。

 ゲノム配列を解析する技術のおかげで、がんで起こる遺伝子の変化に関する知識が増えた一方で、有効な治療の標的となる遺伝子はさほど見つかっていない。

 がん細胞が示す遺伝子変異は無数にあるため、がんに特化した薬を開発するのは気が遠くなる仕事だ。だが科学者たちは、がんには代謝(細胞がエネルギーを生み出したり使ったりするプロセス)が正常に機能しないという特徴があることがわかっている。つまり、がん細胞の代謝をプログラムし直せば、有望な治療の戦略になる可能性がある。