食道がんは最新治療法より化学放射線療法で…手術をパスする意義(中川恵一)

AI要約

食道がんの治療法について新たな研究結果が発表されました。2剤併用に加え、ドセタキセルを用いた3剤併用の抗がん剤治療は従来の治療法よりも生存期間を延長する効果があることが明らかになりました。

手術が不可避な場合、食道がんの手術は非常に大がかりであり、患者にとって肉体的負担が大きいことが指摘されています。特に、喉頭の切除が必要な場合は、声帯を失うリスクもあるため慎重な選択が求められます。

化学放射線療法を選択する場合は、手術を回避できる可能性がありますが、どちらの治療法が良いかを判断するためには患者自身の状況やリスクをよく理解することが重要です。

食道がんは最新治療法より化学放射線療法で…手術をパスする意義(中川恵一)

【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】

 飲酒や喫煙の影響で発症しやすいがんの一つに食道がんがあります。その治療法は日本の場合、抗がん剤でがんを小さくしてから手術するケースが多くなっています。その抗がん剤治療について国立がん研究センターのグループは、新たな研究結果を発表しました。

 これまで切除可能な進行食道がんは、シスプラチンと5-FUという2つの抗がん剤治療をしてから手術を行っていました。国立がん研究センターが研究したのは、これにドセタキセルを加えた3剤併用の抗がん剤治療です。

 生存期間について比較すると、その中央値は2剤併用が5.6年。一方、3剤併用は中央値が未到達でした。生存期間中央値は母集団の真ん中の人の生存期間を示しますから、未到達とは母集団の多くが生存され真ん中の人のデータが取れないということです。2つのグループ間を比較すると、統計的な有意差も認められ、3剤併用が従来の抗がん剤治療に比べて生存期間を延長することが認められました。

 一方、欧米では2剤併用に放射線を加える化学放射線療法が主流です。今回の研究では、化学放射線療法と2剤併用の比較はされ、有意差なしとする結果でしたが、化学放射線療法と3剤併用との比較はなされておらず、どちらにメリットがあるか分かりませんが、一ついえるのは手術の有無です。新しい3剤併用は手術が前提です。しかし、化学放射線療法はそれで画像からがんが確認できなくなれば、その後は手術をせず経過観察で済みます。ステージ3の食道がんで闘病した女優の秋野暢子さんが選択した治療は化学放射線療法で、手術はしていません。

 なぜ手術の有無を強調するかというと、食道がんの手術は、とにかく大がかりだからです。食道のほとんどと胃の一部に加え、リンパ節を含む周辺組織も切除。その上で胃を持ち上げて、食道の残った部分とつなげて食道の代用にします。胃がんで胃を全摘するのと同じで、手術後は食事量が減り、やせます。しかも秋野さんが患った食道がんのタイプだと、通常は喉頭も切除。結果的に声帯も切除され、声を失うリスクがあるのです。

 3剤併用で生存期間は延長しても、この手術を受けることによる肉体的負担はかなり大きいといえます。抗がん剤の副作用も2剤のときより強くなります。日本の患者さんは新しい治療法が誕生すると、すぐそちらに振れる傾向がありますが、こと食道がんに関しては手術をせず臓器を温存する意義は大きい。食道や胃、声帯があるとなしでは、生活の質がまったく違いますから。

■公開講座「私が放射線治療を選ぶ理由」

 日本放射線腫瘍学会は市民公開講座「私が放射線治療を選ぶ理由 秋野流 鬼退治の選び方」を開催する。化学放射線治療で食道がんを克服した秋野暢子さんをゲストスピーカーに招き、闘病の体験談を語る。

▽日時:7月13日(土)14時~15時30分。参加費無料

▽事前登録は学会HPから

▽定員:会場参加80人、オンライン視聴500人

▽場所:コモレ四谷タワーコンファレンス

(中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)