じつは、ここ20年ほどで「海のある天体」は、次々と見つかっている…「地球外生命の発見」が、一気に現実味を増した「衝撃的な発見」

AI要約

地球最初の生命はRNAワールドから生まれたというシナリオには疑問があり、生命がなぜできたのかを合理的に考えるために提唱されるのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。

最新のカッシーニ・ホイヘンス計画によるタイタンの探査結果から、液体のメタンやアンモニアが存在するタイタンも生命が存在しうる「第2の生命」探査の候補地として注目されている。

このような環境で水の代わりに他の溶媒を使う生命の可能性を検討することが、タイタンを含む他の惑星や衛星における生命探査の重要性を示唆している。

じつは、ここ20年ほどで「海のある天体」は、次々と見つかっている…「地球外生命の発見」が、一気に現実味を増した「衝撃的な発見」

「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」

圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか?

この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。本書刊行を記念して、その読みどころを、数回にわたってご紹介しています。

*本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

前回の記事でご紹介したボイジャーによる探査の結果、土星の惑星「タイタン」の表面には、「液体のメタンの海があって、その海の中では、水の代わりにメタンを使うような生物が存在しているのではないか」という疑問と期待がふくらんでいきました。

タイタンは生命が存在しうる「ハビタブル世界」なのか?

この謎の解明を目的として、NASAと欧州宇宙機関(ESA)、さらにイタリア宇宙機関(ASI)がスクラムを組んだのが「カッシーニ・ホイヘンス計画」です。

1997年、NASAが製造した探査機「カッシーニ」が打ち上げられ、2004年に土星系に到達すると、タイタン着陸用にESAが製造した「ホイヘンス」が切り離されました。翌年1月、ホイヘンスはタイタンの大気を調べながら降下し、無事に着陸しました。

こうしてそれまで「もや」で見えなかったタイタンの表面が、初めて撮影されました(図「ホイヘンスが撮影したタイタンの地表」)。石ころのようにごろごろ転がっているのは氷のかけらで、川で流された小石のように角が取れています。また、「もや」を分析したところ、複雑な有機物であることが確認されました。

もう一つの謎、「メタンの海」の問題も解決しました。海のような大きなものはなかったのですが、タイタンを周回していたカッシーニ本体の観測により、極地方に米国の五大湖程度の大きさの湖が多数見つかり、液体メタンと液体エタンからできていることもわかりました。

ホイヘンスの写真に見られる角の取れた氷の存在も含めて考えると、タイタンではメタンやエタンが地球の水の役割を果たしているようです。このほか、クレーターも多く見られましたが、これは液体アンモニアを噴き出す「氷火山」ではないかと考えられています。氷の下にはアンモニアからなる地下海があるのではないかと推測されています。

以上のことから、水の代わりに他の溶媒を使う生命の可能性を考えるならば、液体のメタンやアンモニアが存在するタイタンもまた、「第2の生命」探査の候補地と考えられるのです。