アインシュタインはなぜ相対性理論にたどり着いたのか?その思考の背景にはあった当時の科学界が解明できなかった謎

AI要約

宇宙空間の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在を探る物理学の最新情報が紹介されている。

アインシュタインが提唱した相対性理論が、重力についての新たな考え方を開拓した経緯が解説されている。

19世紀末に行われた光速度に関する実験の結果から、エーテル仮説に関する謎が提示され、物理学者たちの思考が追求されている。

アインシュタインはなぜ相対性理論にたどり着いたのか?その思考の背景にはあった当時の科学界が解明できなかった謎

 宇宙空間の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在。これは、ナノヘルツという非常に長い周期の重力波でした。世界に衝撃を与えたこの観測事実から最新の宇宙論を紹介する話題の書籍『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』。この記事では現代の物理学でも最大の謎の一つとされている「重力」について、アインシュタインの思考をたどりながら考えていきます。

 *本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

 さて、ニュートンが発見した万有引力の法則ですが、それに異論を唱えたのがアルベルト・アインシュタインです。ここからは、アインシュタインが有名な「相対性理論」をどのようにして考え出したのかを見ながら、重力についてさらに考えてみます。

 1905年、アインシュタインは「特殊相対性理論」を作り上げます。その前夜となる1887年、米国の科学者マイケルソンとモーレーは、光に関する精密実験を行いました。それは、「エーテル」とよばれる物質に対する地球の運動速度を測定する挑戦でした。

 エーテルとは、当時の科学者たちが仮定した物質のことです。たとえば、音はまわりの空気の振動として伝わります。この振動が伝わる速度が音速です。同様に、当時の科学者は光を伝える物質があり、その物質を光が伝わる速度が光速だと考えたのです。つまり、エーテルの振動が光だと仮定したのです。

 もう一度、音に戻って考えてみましょう。

 静止している観測者に対する音速と、空気に対して運動している観測者に対して音が伝わる速度は異なります。空気に対して観測者が運動する速度の分だけ異なるのです。

 夜空を眺めると、光はあらゆる方向の星から地球に届いています。そのため、宇宙空間は光を伝えるエーテルで満たされているはずです。そこで、マイケルソンとモーレーは、宇宙空間にあるエーテルに対して地球が動く速度を測ろうと考えたのです。

 彼らの実験装置(それが設置された実験室も)は地球の上にあるので、地球の自転の結果、時刻によって地球の進む向きと実験装置の向きが変わり、光の伝わる速度に関する実験結果は時間的に異なるはずです。

 しかし、実験の結果、エーテル仮説から予想される値での変動は全く検出されませんでした。

 なぜ、光の伝わる速度が変わらないのか? 彼らの実験結果は大きな謎となり、その後、20年もの間、物理学者は満足いく解決策を見出すことができませんでした。