「薄いブラウン管」はなぜ作れなかったのか?…薄型のディスプレイの発明によりブラウン管が瞬く間に淘汰されてしまったワケ

AI要約

物理学者カール・フェルディナント・ブラウンによってブラウン管が発明された。

ブラウン管は電子を制御するために電場が必要であり、液晶ディスプレイに取って代わられた。

電場の概念について理解することで、物理の難解なテーマにもアプローチしやすくなる。

「薄いブラウン管」はなぜ作れなかったのか?…薄型のディスプレイの発明によりブラウン管が瞬く間に淘汰されてしまったワケ

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 本記事では電磁気学編から、電場の謎ついてくわしくみていきます。

 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。

 昭和世代にはお馴染みだが、若い世代の中には「ブラウン管」(下記イラスト参照)と言われてもそろそろ「見たことない」「聞いたこともない」という人たちがいてもおかしくない時代になった。ブラウン管の「ブラウン」は人名に由来する。フルネームはカール・フェルディナント・ブラウンで、1850年6月6日に生まれ、1918年4月20日に亡くなっているれっきとした物理学者である。

 物理学者だからもちろん、テレビの画面を作るためにブラウン管を発明しようとしたわけじゃなく、電流回路の波形を可視化するオシロスコープという装置を作るための基礎技術としてブラウン管を発明した。

 オシロスコープという装置自体は残っていても、ディスプレイ部分はもう液晶に置き換えられてしまったものが多いので、オシロスコープの発明のためにブラウン管が考案された、と言ってもあんまりピンとこない人も今や多いのかもしれない。

 ブラウン管は、20世紀に、いわゆるディスプレイに多用された技術だ。スマホにも使われている平たい液晶ディスプレイとは異なって、ブラウン管には「奥行き」が必要だった。それは「画面のどこを光らせるか」という制御に電子銃を使っていたからだ。

 ブラウン管は、電子銃から放出された負電荷を帯びた電子を偏向コイルによってその軌道を曲げて、スクリーン蛍光面に照射し、発光させて映像を表示する。ブラウン管でもっとも重要となるのが、電子銃から放出された電子を、スクリーンの正しい場所にぶつける制御技術だ。

 ここで登場するのが「電場」という概念だ。電場とは、ひらたくいえば、電荷が電気的な力を受ける空間のことを指す。ブラウン管は、負電荷を帯びている電子を電場に作用させることで静電気力を発生させ、電子に加速度を生じさせて軌道を曲げることでスクリーンのどこに電子が到達して光らせるかを制御している。

 この電子銃から電場までの距離が短くできなかったのでどうがんばっても「薄いブラウン管」を作ることができなかった。その結果、液晶ディスプレイなどの薄型のディスプレイが発明されると、ブラウン管は瞬く間に淘汰されてしまった。

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 【つづき】〈あまりにもわかりにくい「電場」を平易に解説…そもそも「電場」とは何なのか? 〉では電場についてよりくわしくみていきます。