「『待ち医者』では、地域医療の役目は果たせない」37歳医師が僻地の商店で働いて気付いたこと

AI要約

医師が地域の食料品店で一日店長を務める取り組みが紹介されている。

患者が診察室とは異なる表情を見せることで、生活上の課題が見える効果もある。

地域の住民の健康を支えるため、診療と地域コミュニティとの連携が大切だというメッセージが伝えられている。

「『待ち医者』では、地域医療の役目は果たせない」37歳医師が僻地の商店で働いて気付いたこと

 京都府南丹市美山町鶴ケ岡の商店「たなせん」で、近くの診療所に勤める医師が「一日店長」としてレジに立つ試みが続いている。地域に溶け込むことで受診のハードルを下げるだけでなく、なじみの患者でも買い物の様子から「診察室では分からなかった課題が見える」という効果もある。診療との両輪で住民の健康を支える。

 市美山林健センター診療所の所長として3年前から週1回診察をしている大阪医科薬科大講師の西岡大輔医師(37)。「たなせん」は過疎化が進む鶴ケ岡にある地域唯一の食料品店で、住民が集う拠点になっている。西岡医師も度々顔を出してきた。

 店では、かかりつけの患者が「診察室より元気な表情」を見せる一方、買う物を決めたり、小銭で支払ったりする動作から、生活上の苦労も垣間見えた。日常を知ることで診察に生かそうと「たなせん」と相談し、2月に初めて一日店長に就任。エプロン姿で気さくに接客し、人気を集めた。

 2回目の5月3日も午前9時から午後5時まで、来店した独居の高齢者や親子連れと会話を楽しみつつ、調子を尋ねたり、商品選びを見守ったりした。西岡医師は「診察では分からない課題が一目瞭然」と意義を語る。

 通院していない住民にも顔を知ってもらえた。立ち話での相談を契機に、後日受診した人もいる。「来た人だけを診る『待ち医者』では、地域医療の本来の役目は果たせない。自分が外に出ていく」

 今後も不定期に続けたいという。「たなせんも医療も、豊かな暮らしという究極目標は同じ。手を取り合っていきたい」と語った。

 たなせん店舗主任の菊地由紀さん(43)も、客と自然に交流する西岡医師を見て「店員として違和感がない。西岡先生がより地域に浸透するきっかけになれば」と期待した。