【視点】異例づくめの米大統領選

AI要約

米大統領選でバイデン大統領が撤退し、後継候補にハリス副大統領が決まった。バイデン氏の高齢による衰えが影響し、歴史的な大統領選となる可能性がある。

トランプ氏とハリス氏の対立姿勢や対中政策、米中関係の影響などが注目され、日本政府も両候補に対応する準備を進めている。

沖縄の基地問題に関しては、大統領選の結果によらず、従来の日米合意を推進する姿勢が変わらない見込み。

 米大統領選で民主党から出馬予定だったバイデン大統領(81)が撤退を表明し、後継候補に事実上、ハリス副大統領(59)が決まった。バイデン氏は候補者討論会での不調など、高齢による衰えが目立ち、職務継続を疑問視する党内の声に抗しきれなかった。

 民主党は大統領選まで4カ月というタイミングで急きょ、候補者が差し替わった。米大統領選で、現職の再選断念は1968年のジョンソン大統領以来、56年ぶりとなる。

 共和党側でも今月、大統領候補のトランプ前大統領(78)暗殺未遂事件が起き、世界中が騒然となった。異例づくめの大統領選だ。

 民主党のピンチヒッターとして登場する形のハリス氏だが、当選すれば女性として初で、黒人としてはオバマ氏以来2人目となる。選挙戦はトランプ氏が優勢と見られるが、ハリス氏は米国の人種的多様性やマイノリティを象徴する存在となり得るため、番狂わせの可能性がないとは言えない。

 トランプ氏が勝利すれば、1893年のクリーブランド氏以来2人目の「返り咲き」となる。いずれにせよ歴史的な大統領選になることは間違いない。

 バイデン政権は、外交面では同盟国との関係強化をうたい、ロシアの侵攻を受けたウクライナ支援に力を入れるなど「世界の警察官」としての米国の存在感演出に腐心した。

 対するトランプ氏は「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げ、外交面では同盟国に相応の防衛費負担を求める。両陣営でウクライナ戦争やイスラエル・ハマスの紛争への対応に温度差があり、大統領選の結果は国際情勢を左右する。

 両陣営の対中政策も注目される。民主党、共和党とも中国に対しては基本的に厳しい姿勢だが、トランプ氏は現職時代、米中の経済関係の切り離し(デカップリング)に言及した経緯もある。貿易で中国から有利な条件を引き出す交渉術の可能性もあるが、対中強硬がより際立っている印象だ。

 またトランプ氏には、中国の習近平国家主席や、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記との個人的関係を重視するような言動も見られる。日本の安倍晋三元首相との親密な関係も有名だが、首脳同士の人間関係を軸に外交を動かしていく独特のスタイルが垣間見える。

 ハリス氏は副大統領としてバイデン氏の影に隠れ、外交面での目立った実績はないが、基本的にはバイデン政権の方針を引き継ぐ。膠着化した感がある米中対立、北朝鮮、イランの核開発問題などで突破口を見いだせるだろうか。

 日本政府はトランプ氏、ハリス氏のいずれが当選しても対応できるよう、水面下で情報収集を進める。

 沖縄の基地問題に関しては、トランプ前政権、バイデン政権の時代を通じ、目立った変化はなかった。つまり大統領選の結果にかかわらず、米軍普天間飛行場の辺野古移設と嘉手納以南の基地返還など、従来の日米合意を推進する姿勢は両国とも変わらないだろう。

 沖縄県はいまだに辺野古移設反対を訴えるが、大統領選を契機とした米国の政策転換は考えにくい。辺野古問題で一点突破を図る県の姿勢は、現実的には行き詰まっていると見るほかない。