「おいしいを届けたい」高齢者の笑顔を励みに…郊外や山間部巡るキッチンカーで紡ぐ絆

AI要約

山口県萩市で手作り総菜やおにぎりの移動販売を行うキッチンカーが、地域の高齢者や交通手段の限られた住民に喜ばれている。

キッチンカーでは規格外の野菜を使用し、手頃な価格で食事を提供しており、高齢者たちの買い物や食事の悩みを解消している。

起業者は故郷での子育て経験を活かし、昨春にキッチンカー事業をスタートさせ、市内各地やイベントで活動している。

 故郷の山口県萩市で2月から、手作り総菜やおにぎりの移動販売を始めた。キッチンカーのハンドルを握って向かうのは、店舗が少ない市内の郊外や山間部。「来てくれてありがとう」。交通手段が少なく、日々の食材購入に困る高齢者らの一言と笑顔を励みに、地域の絆を紡ぎながら快調にひた走る。

 今月の平日の昼、同市のJR越ケ浜駅近くにキッチンカーが止まると、近くに住む60~70歳代の4、5人が待ちかねたように近づいて来た。

 この日の一番人気は、白身魚のフライに、ニンジンとシメジを使ったきんぴらを添えた総菜のセット。当日朝、このキッチ

ンカーで調理をする。規格外の野菜を使うなどし、1食400円に抑えた。

 「車の運転は苦手でね。病院に行く時だけ」「足が悪く、スーパーで買い物をするのもつらい」――。買いに来る高齢者たちの事情は様々だ。自宅で介護する92歳の母に手作りのおいしい物を、と複数個をまとめ買いする人もいる。

 「こうやって来てくれるのを待っていたんです」。買い物客の一人がひときわ笑顔を輝かせた。

 萩市で生まれ育った。旧県立奈古高(同県阿武町)を卒業後、栄養士を目指して北九州市の短大に進学したが、数か月後、現在の夫との間に長女を宿した。短大を中退して故郷に戻り、夫と一緒の子育ての日々。そのかたわら、医療機関でのパート勤務などを続けた。

 「体を動かしながら、人の役にたつような仕事ができないか」。キッチンカーという仕事を思い描いたのは昨春だった。

 さっそく、市内各地で催される老人クラブの集まりに足を運び、食べたい総菜や購入可能な価格をアンケートで調べた。「足腰が弱って最寄りのスーパーまで歩けなくなった」「白米は炊けても総菜まで手が回らない」と高齢者たちの悩みを知り、起業を決心した。

 平日の午前10時~午後5時、キッチンカーで市内を巡り、土、日曜日はマルシェなどのイベントに参加する。忙しい日々だが、短大時代からの友人で栄養士の柴川美和子さん(28)との二人三脚だから心強い。