シューベルトの人生が投影された歌曲集『冬の旅』の凍てつくような味わい【クラシック今日は何の日?】

AI要約

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの誕生日を祝い、彼の声楽家としてのキャリアに焦点を当てる。

フィッシャー=ディースカウが歌ったシューベルトの歌曲集『冬の旅』の重要性と彼のアプローチについて。

クラシックソムリエの田中 泰さんによる音楽解説で、フィッシャー=ディースカウとシューベルトの関連性を探る。

シューベルトの人生が投影された歌曲集『冬の旅』の凍てつくような味わい【クラシック今日は何の日?】

難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。

今日5月28日は、ドイツのバリトン歌手、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925~2012)の誕生日です。

生涯に400枚以上のアルバムを残し、オペラや歌曲に宗教曲など、あらゆるジャンルの音楽を極めて高いレベルでこなしたフィッシャー=ディースカウこそは、“20世紀最高の声楽家の1人”に違いありません。その彼のキャリアのスタートは1948年1月に行われたRIAS(アメリカ軍占領地区放送局)で歌ったシューベルト(1797~1828)の歌曲集『冬の旅』でした。

ヴィルヘルム・ミュラーの詩につけられたこの歌曲集のテーマは“恋に破れて孤独な旅に出る青年の姿”。これは、絶望の中で生きなければならなかったシューベルト自身の人生を投影したものだともいわれています。

8度のスタジオ録音を手がけた『冬の旅』についてフィッシャー=ディースカウは、「作品がもたらす厳しく凍りつくような印象を恐れてはいけない」という言葉を残しています。病に侵されたシューベルトが最後の力を振り絞って完成させたこの歌曲集の出版は、シューベルトの死の1か月後のことでした。

一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。