“虚構系”かくれキリシタン遺物 「悪いモノ」ではなく…タブー視せず紹介する展示会

AI要約

キリシタン遺物には学術的裏付けがない「虚構」とみられる一群の資料がある。大正時代から幾度も起こったブームを背景に大量に「発見」され、その後疑義が生じたこれらの資料にあえて光を当てた企画展が福岡市の西南学院大博物館で開かれている。

虚構系資料をタブー視せず、時代背景も含め捉え直すことで「キリシタン」のイメージに再考を促す。

虚構系資料は多くのミュージアムで死蔵状態になっているという。扱いの見直しによって、私たちはより多くの「時代を映す鏡」を得られるのではないか。

“虚構系”かくれキリシタン遺物 「悪いモノ」ではなく…タブー視せず紹介する展示会

 キリシタン遺物には学術的裏付けがない「虚構」とみられる一群の資料がある。大正時代から幾度も起こったブームを背景に大量に「発見」され、その後疑義が生じたこれらの資料にあえて光を当てた企画展が福岡市の西南学院大博物館で開かれている。虚構系資料をタブー視せず、時代背景も含め捉え直すことで「キリシタン」のイメージに再考を促す。 (川口安子)

 本展は長崎県平戸市生月町博物館・島の館館長、中園成生さんの著書「かくれキリシタンの起源」に倣い、かくれキリシタンの信仰が独自に解釈された結果、誤認・捏造(ねつぞう)・創作されたキリシタン遺物を「虚構系資料」と定義する。

 真ん中に仏が鎮座するきらびやかな「仏像付き十字架」は、典型的な「虚構系資料」だ。禁教期に信仰を隠すため仏像を付けたと言われると納得してしまいそうだが、実際は1945~50年頃、個人の手で大量に鋳造されたもの。19世紀の新ゴシック風であることなど禁教期の製作・使用でないことは明らかだが、国内外で多数が出回っているという。

 「禁教期に福岡藩で制作されていた」と販売された紙踏絵や、板踏絵などの偽造品も展示。これらは営利目的で明治時代以降につくられたとみられる。

 虚構系資料は、意図的なニセモノに限らず、誤認されたものも多い。

 十字の文様は、安易にキリシタンと結びつけられやすいモチーフ。明治以降、キリシタンブームに伴って十字文様が施された皿や壺(つぼ)が大量に流通。17世紀頃の染め付け皿は、柄の一部が十字架のように見え、牧師が旧蔵していたというだけで「かくれキリシタンたちが祈っていた」とされた。

   ‡    ‡

 2021年末から展示を中断していた西南学院大博物館所蔵の魔鏡も、虚構系資料と明示して再展示に踏み切った。

 背面に鶴や松の文様が施された魔鏡は、光を反射するとキリスト磔刑(たっけい)像が投影される。鬼束芽依学芸員によると、この鏡が西南学院大神学部に保存されているのが「発見」されたのは1988年。当時の新聞記事では日系アメリカ人宣教師が昭和30年代初めに京都の古道具屋で購入したものと紹介された。2006年の同館開館時、<密かにキリスト教を信仰する必要性から生まれたもの>として披露。12年の本紙寄稿記事でも<幕府による弾圧の厳しさを象徴するとともに、禁教下におけるキリシタンの信仰形態をあらわにした>と解説された。

 しかし近年の研究で、魔鏡がかくれキリシタン信仰に用いられた事実は確認できず、偽資料の可能性が高いと指摘。同館所蔵の魔鏡も、実際にかくれキリシタンが使用していた証拠を伴っていないことから、鬼束学芸員は本展図録で<「かくれキリシタン資料」である可能性はない>と結論づけた。

   ‡    ‡

 虚構系資料はなぜ生まれたのか。本展はその歴史的背景も紹介している。

 禁教以後、キリシタンの関係資料が初めて大衆に公開されたのは1906年の東京帝室博物館(現東京国立博物館)での特別展。大正時代に大阪府で新たなキリシタン遺物が発見されたのを皮切りに各地で「発見」が相次ぐようになった。

 文学作品もブームを牽引(けんいん)。明治末に北原白秋らがキリシタンゆかりの地を訪ねた紀行文「五足の靴」は南蛮趣味を流行させ、芥川龍之介の一連の短編いわゆる「切支丹物」も読まれた。戦後は遠藤周作の「沈黙」が国内外のかくれキリシタン信仰・信者のイメージ形成に大きな影響を与えた。

 中園さんは、こうした状況が地方での研究の盛り上がりや、その所産としての虚構系資料の発生にも影響を与えたと説明する。「禁教時代に信者が勝手に信仰形態を変容させた」という誤ったかくれキリシタンのイメージも虚構を生む一因になっているという。

 鬼束学芸員は虚構系資料を単なる「悪いモノ」ではなく「大衆のキリシタンイメージが具現化したもの」と捉えるべきだと提案。「実際のキリシタンの信仰とは関係がないと明示した上で展示活用すべきだ」と語る。

 虚構系資料は多くのミュージアムで死蔵状態になっているという。扱いの見直しによって、私たちはより多くの「時代を映す鏡」を得られるのではないか。

 ◇「創(つく)られたキリシタン像(イメージ)」は10月5日まで。入場無料、日曜休館。9月21日に西南コミュニティーセンターで公開シンポジウムがある。