福島の山間地に「魚屋」さん併設の小さな銭湯 丸一魚店 富士の湯

AI要約

田航市の船引駅で立ちはだかる「お人形様」とは、江戸時代からの魔よけである。駅のリニューアルや物騒な伝説など、船引の魅力が探求されている。

駅の整備は進んでいるが、コインロッカーがないことが不便である。それでも過去の苦労に比べれば取るに足らないと思える。

旅から得られる非日常体験や新しい発見の楽しさを、日常の中で地道に楽しむことができる。銭湯でのコミュニケーションや見知らぬ地での出会いも、旅の一環である。

福島の山間地に「魚屋」さん併設の小さな銭湯 丸一魚店 富士の湯

旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。

行ったことがない場所へ行くと、見たことがないものに出会う。これこそが旅の醍醐(だいご)味だろう。

福島県の郡山から磐越東線に乗って、田村市の「船引(ふねひき)」という駅で降りた。はじめての市、はじめての駅である。ホームの端から駅舎へ行こうとしたら、こんなものが立ち塞がっていた。

怒った鬼のようだ。江戸期から田村郡内の五つの集落で飾られてきた「お人形様」と呼ばれる魔よけで、現在は3カ所に残っているという。これはレプリカで高さ2メートルほどだが、実物は4メートルもあるらしい。

お人形様は両手を広げて、通せんぼをしている。来るな、とのメッセージだ。背後に大きく掲げられた「ようこそ!! 田村市へ」との齟齬(そご)がシュールである。ちなみに田村という地名は、蝦夷(えみし)征討に来た坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)にかかわる伝説にもとづいており、船引とはその戦隊の物資(戦死者の棺とも)を船に載せて川を引いてきたことに由来するという。なにやら物騒な伝説が数多く残っているようだ。

船引駅は田村市の中心駅としてリニューアルされている。空調の効いた駅舎は大きなガラス張りで明るく、案内所を兼ねた売店があり、トイレは最新式で清潔、窓際には机と椅子がたくさん並べられてフリーWi-Fiが通じている。

最近こうした駅の整備が増えてきて、旅行者としてありがたい。だが残念ながらコインロッカーがなかった。私はパソコンから着替えまで旅の一式が全部入ったリュックを背負ってこの地を歩くことになった。まあ少し前まではそれが当たり前だったし、田村麻呂の苦労に比べればどうってことないと考えよう。