最も高いことないな、恋愛が自分の人生で。芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』の著者が綴る、恋愛に関する率直な気持ち

AI要約

芥川賞受賞作家の新刊『新しい恋愛』について、恋愛テーマの短編小説集がどのように生まれたかが描かれる。

主人公は恋愛に対して懐疑的であり、最初の一篇を書き終えた際には恋愛テーマの続編を書く予定はなかったが、編集者の提案で恋愛短編集を目指すことになる。

作者自身は長らく恋愛から遠ざかっており、友情や人生の尊重を重要視する立場から恋愛小説の執筆に苦慮する姿が描かれる。

最も高いことないな、恋愛が自分の人生で。芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』の著者が綴る、恋愛に関する率直な気持ち

みんなの恋愛をわたしは知らない。芥川賞受賞のベストセラー『おいしいごはんが食べられますように』著者の最新刊、最高の〈恋愛〉小説集『新しい恋愛』はどのようにできたのか。「本の名刺」(「群像」2024年10月号掲載)をお届けします

歳を重ねるごとに恋心の手触りを忘れつつあるな、と思っていたら恋愛短篇の依頼がきた。恋をテーマにした短篇小説と聞いて、すぐに「実らせまい」と思った。実らせまい、というか恋なんて、そうそう実るまい。ほうっておけば自然に腐るに違いない……。目論見どおり、バレンタインデーのチョコレートを数年にわたって渡し続けた少女の恋は、見事に実らなかった。わたしはプロットを立てないで書くので、初めからフラれるつもりで書き始めたわけではない。書いているうちにそうなったのだから仕方ない。

そうして最初の一篇である「お返し」を書き終えた時は、まさかその後も続けて恋愛をテーマに短篇を書くとは思っていなかった。初めの依頼を受けた号の特集が「小さな恋」だったので、恋がテーマになったのだけど、今の自分が出せる恋心はそれで書ききったと思っていたのだ。だから、担当編集者からの「次も恋愛テーマで、というかしばらく恋愛しばりで、恋愛短篇小説集を目指しましょう!」という提案は、目から鱗でもあった。

恋愛しばり! そうか、どんな本にするかを想定して次に書く小説のテーマを考えることもできるのか。そんな方法は、デビュー以前の投稿時代も含めて一度も試みたことがない、というか思いつきもしなかったので、なるほどこの計画性が商業出版かあ、と変に感心したし、プロの仕事のようでちょっとうれしかった。

とはいえ恋愛小説の種がない。わたし自身は長らく恋をしていない状態だ。作者に恋愛情緒がなくても、もちろん小説は書けるだろうけれど、他者の恋愛に深い興味を持たなくなってからも久しい。

友だちと恋バナをすることはあっても、十代や二十代の「こんなことして、あんなことした」という感情のジェットコースターを楽しむ仕方ではなく、お互いの人生を尊重し関わり合える人かどうか、と二人の未来を展望する視点に変化していて、今この瞬間にドキドキさせてくれなくてもいいから、長く落ち着いて、互いの気持ちと過ごし方を大切にしてほしい(させてほしい)、とそればかりを願う。

このままでは恋愛ではなく友情の話を書いてしまうような気がして、恋愛小説とは? どうしたら? とますます迷子になった。それで、気付け薬として少女漫画を摂取することにした。十代の当時好きだった少女漫画を読むと、今でも切なくなるしドキドキする。しっかり楽しめるのだけれど、一方で頭の中は喧々囂々とかしましい。