「熱海」の夜はまるでゴーストタウン…名ばかり“V字回復”に地元民は複雑心境

AI要約

熱海市内の観光地活況による人気復活に対する地元住民やタクシードライバーの懸念と疑問が垣間見える。特に若者向けのスイーツ店の流行と宿泊客増加による夜の街の閑散ぶりが問題視されている。

市内の繁華街に若者が殺到する中、地元住民は熱海の伝統的な和菓子店の重要性や古き良き熱海の魅力について考えている。

熱海の夜の賑わい不足や地元文化の継承に対する懸念と共に、市の観光振興策と地元コミュニティの調和が問われる状況が浮かび上がる。

「熱海」の夜はまるでゴーストタウン…名ばかり“V字回復”に地元民は複雑心境

【話題の現場 突撃ルポ】#23

「熱海の人気がV字回復したって? そんなもんにだまされちゃいかんよ……」

 こう嘆声を漏らすのは、静岡県熱海市内を走る60代のタクシードライバーだ。バブル崩壊後の衰退から一転、再び活況に沸く観光地として注目されている「熱海」。市は今年5月、昨年度の宿泊者数が約297万人に上り、コロナ前の約9割まで回復したと発表。都心部からの交通の利便性に加え、ご当地スイーツ店の出店や、年間を通して10回以上開催される「熱海海上花火大会」が呼び水となり、近年は若者の観光客が殺到しているという。なかでも熱海ブームの火付け役とされるのが「熱海プリン」だ。

「絶妙な食感と、昭和レトロな牛乳瓶の容器が、どうやらZ世代にヒットしたようです。連日、商店街はプリンを買い求める若者であふれている。今や熱海の顔と言っても過言ではありません」(地元住民)

 記者が訪れた8月末は、夏休み期間中ということもあってか駅前の「平和通り商店街」は、10~20代前半とおぼしき若者の姿でごった返していた。散歩がてら駅から少し離れた「銀座商店街」に向かうと、午後6時前にもかかわらず店の明かりは徐々に消え始め、一瞬にしてシャッター街へと様変わり。日中の喧騒が嘘だったと言わんばかりに静まり返った。

 冒頭のタクシードライバーは、悄然とした面持ちでこう話す。

「宿泊客の獲得に向け、7000円台から宿泊可能な“素泊まりプラン”を打ち出す旅館やホテルが増えています。客の大半は大学生~20代前半の若者で、昼間は食べ歩き目当てに出歩いても、夜はコンビニで酒を買い込んで部屋飲みをするから、昔に比べて夜間の人出は非常に減り、タクシー業界も厳しい現状。商店街にある飲食店のオーナーも、客が来ないなら早々と店を閉めるのは当然でしょう。テレビでは熱海が奇跡の復活だの何だのと伝えているけど、この廃れっぷりを見れば勢いが戻ったとは言い難い」

 市内のコンビニで出会った20代前半の女性2人組は、「今回の旅行はホカンス(ホテルバカンス)目的で来たので、事前にお酒とおつまみを買い込んで夜は部屋で過ごすつもりです。ぶっちゃけ外で飲むとお金もかかるので……(苦笑)」とこぼした。

 夜も更けた午後11時過ぎ、銀座商店街を歩く人の姿はほとんど見受けられなくなった。辺りをうろついていると、明かりがともされたバーを発見。店内は地元の常連客で満席で、周辺の閑散ぶりからは想像できない賑わいを見せていた。

■スイーツ店の流行は嬉しい反面…

 夜の街の住民たちは熱海の現状をどう受け止めているのか。バーを営む40代の男性は、「宿泊客が増加しても学生が多ければ夜の街が潤わないのは仕方がないこと」と話し、こう続けた。

「はやりのスイーツをきっかけに、熱海に足を運んでくれる人が増えたのは非常にありがたい。ただ、熱海といえば温泉まんじゅうやようかんなど、地元で代々続く老舗和菓子店も多い。ここ数年目立つのは新しいスイーツばかりで、少し複雑な思いもあります。古き良き熱海にも興味を持ってもらえれば、もう少し熱海は回復できるんじゃないかな……」

 さびれた温泉街のイメージから、若者が集まる観光地へと変貌を遂げた熱海。宿泊客の増加が喜ばれる一方で、地元住民たちはおのおの悶々とする問題を抱えているようだった。