20~49歳の発症が急増…「若年性大腸がん」は早期発見がとりわけ重要

AI要約
日本人には大腸がんが多く、女性の死因第1位。若年性大腸がんの増加も問題。検診の重要性を強調。大腸がんは早期発見が難しく、自覚症状が乏しいため注意が必要。若年発症の特徴やリスク要因についての警鐘。近年導入されたダビンチ手術の安全性や効果について。手術選択肢としての意義を強調。
20~49歳の発症が急増…「若年性大腸がん」は早期発見がとりわけ重要

 がんの中で日本人に最も多く、女性の死因第1位である「大腸がん」。高齢者に発症しやすいイメージが強いが、近年、世界的に50歳未満で発症する若年性大腸がんが増加しているという。大阪急性期・総合医療センター消化器外科副部長の井上彬氏に聞いた。

「通常、大腸がんは40歳以降で発症リスクが高くなり、高齢になるにつれ罹患者数が増えるのが特徴です。ところが昨年公表されたアメリカの統計によると、全体の罹患数は右肩下がりで減少しているものの、20~49歳の若年層での数は1990年代と比較して約2倍に増加しています」

 若年発症が増加している理由として、大腸がんのリスクとされる肥満や飲酒、喫煙、加工食品や高果糖食のほか、運動不足や腸内細菌叢の変化が関係していると指摘されているが、はっきりとした理由は分かっていない。

「大腸がんは早期ではほとんど自覚症状がなく見つかりにくいことから、別名『サイレントキラー』とも呼ばれています。とりわけ若年発症の大腸がんは組織学的な悪性度が高い特徴があり、かなり進行した状態で見つかるケースも多い。便秘や腹部膨満感、下血の症状があっても『まさか自分が高齢者の病気になるわけがない』と深刻に考えずに受診を後回しにしたり、検診を受けていないと、知らぬ間に進行して命を落とす危険があるのです」

 大腸がんは女性の12人に1人、男性の10人に1人が生涯のどこかで発症する罹患率の高い病気だが、厚労省の国民生活基礎調査によると、大腸がんの検診受診率は男女ともに50%に達していない。検診を受けていれば、大腸がんの死亡リスクを60%減少させるという調査結果も報告されているから、検診で早期発見し、早期治療を始めたい。

 大腸がんの治療はステージごとに異なり、がんが大腸壁の粘膜内や粘膜下層内の浅い位置でとどまっているステージ0~1であれば内視鏡で切除する。

「ただ、大腸の壁により深く浸潤した場合は手術が必要で、最も行われているのが腹腔鏡手術です。お腹に数カ所の小さな穴を開けて『鉗子』と呼ばれる器具を入れて医師が画像を見ながらメスや鉗子を動かします。ただ、鉗子は菜箸のような直線的な動きしかできず、骨盤内の深く狭い場所にある直腸がんでは剥離や切除の操作が非常に難しい。そこで近年導入されているのが手術支援ロボット『ダビンチ』です」

■ダビンチ手術では8割が肛門温存

 ダビンチとは、これまでの腹腔鏡手術にロボットの機能を組み合わせた手術法だ。腹部に開けた数カ所の小さな穴から鉗子を挿入するまでは腹腔鏡手術と同様だが、医師は患者のそばに置かれたコンソール(コックピット)に座り、3次元の画像を見ながら手元のコントローラーで遠隔操作する。2018年に直腸がん、22年には結腸がんに対して保険適用が認められた。

「ダビンチの鉗子には多関節機能があり、人間の手では不可能な可動域で骨盤など手が届きにくい深い部位での複雑な動きができます。3D画像による視野拡大効果で、より立体的に細かい神経や血管を確認できるので、出血や神経損傷の恐れが少ないだけでなく、手ぶれ補正機能でより繊細かつ安定した操作ができるのが特徴です。当院では大腸がんの手術適応とされたすべての患者さんにダビンチ手術を行い、縫合不全や腸閉塞といった重大な合併症はこれまでより少なくなり、より安全な手術を提供しています」

 22年、海外で行われた直腸がんに対する腹腔鏡手術とダビンチ手術を比較したランダム化比較試験では、術中の開腹手術移行率は腹腔鏡で3.9%、ダビンチでは1.7%と少なく、術中の合併症を引き起こした割合は腹腔鏡で8.7%、ダビンチでは5.4%と、ダビンチの安全性が有意に高かった。

「なかでも気になるのが術後の永久的な人工肛門の造設率ですが、腹腔鏡で22.6%、ダビンチでは16.8%と、ダビンチを受けた8割以上の方は肛門温存に成功しています。さらに、直腸がん手術では、がんの切除端である断端を取り残さないことが最も重要です。取り残しを示す断端の陽性率は、腹腔鏡で7.2%、ダビンチでは4.0%で治療の根治性が高いことが報告されています」

 万が一、大腸がんと診断された時に備えて、ロボット手術の選択肢があることを頭に入れておきたい。