「心の成長には3回の反抗期が不可欠」精神科医・泉谷閑示×岸博幸

AI要約

泉谷クリニック院長の泉谷閑示氏が、現在の精神科治療の問題点や患者の傾向について語る。

泉谷氏は患者それぞれの生い立ちや状況を丁寧に聞き、根本原因を探り出す診察方法を行っている。

バブル時代から現在にかけての患者のエネルギーレベルの変化や、自殺問題についての課題が明らかにされる。

「心の成長には3回の反抗期が不可欠」精神科医・泉谷閑示×岸博幸

慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回の対談相手は、精神科医の泉谷閑示。

岸 今回の対談相手は精神科医の泉谷閑示(かんじ)さん。先生が院長を務める泉谷クリニックには、精神科をいくつかまわったが改善が見られずに、“最後の砦”として訪れる患者が多いそうですね。

泉谷 現在の精神科の治療には問題点が多いんですよ。表面に現れた症状だけでマニュアル的に診断をして、そこからは治療マニュアルに基づいた薬物療法に終始してしまう。簡単に言うと、医者が数分程度しか話を聞かずに、病名に基づいた薬を出す。効果が無ければ薬を変えるか診断自体を変更するだけで、根本的な問題が何であるかを丁寧に探究しようとはしない。これでは本当の解決には至るはずはありません。

岸 先生はどんな診察を?

泉谷 その人が現在置かれている状況や、その人の生まれてからの心の歴史をじっくり伺って、症状の根本原因を探り出し、解決を図ります。さらに、その方の中に生かされずに眠っている資質を見いだし、それを阻害しているものを除去していきます。このような作業を行うためには、時間をかけた対話が不可欠で、1回50分の面接を行います。

岸 最近の患者は、ひと昔前とタイプが違いますか?

泉谷 バブル時代から2000年頃まではエネルギーレベルの高い患者さんが多かった。「思いどおりにならないから死んでやる」といった強烈な執着が絡んだ病理も少なくなかった。それが最近の患者さんからは、良くも悪くもあまりエネルギーを感じない。

岸 自殺者は一向に減りませんね。

泉谷 自殺問題は難しいし、行政の対策もピントが合っていません。悩みを持つ人が相談できる場を増やそうという方向性が中心になっていますが、それだけでは不十分。真正面から向き合い、無意味感を払拭し、生きる意欲をどう引き出せるかが課題なんです。

岸 バブルの頃は、人間の欲求が強かったですよね。現状の上を目指すモチベーションがあった。それが消えた理由はネットやスマホの普及が大きいと思う。

泉谷 確かに高度情報化社会の弊害は大きい。我々世代には、憧れる対象がいろいろあった。あの仕事に就きたいとか、あんな人みたいになりたいとか。それが高度情報化により、舞台裏がすべて晒されるようになってしまい、良くも悪くも憧れを持ちにくくなった。