追悼・新川和江さん 人間の本質見抜く感性、終生持ち続け 「朝の詩」選者、八木幹夫さん

AI要約

新川和江さんは現代詩人であり、自然や日常生活を歌ったユーモアあふれる詩を書く人物である。

新川さんはラ・メールを創刊し、女性詩人を育てる功績を残し、明星のムーブメントにも似た活動をした。

新川さんは詩を頭だけでなく全身を使って書くことを重視し、幼稚園児でも優れた詩が書けることを強調している。

追悼・新川和江さん 人間の本質見抜く感性、終生持ち続け 「朝の詩」選者、八木幹夫さん

新川和江さんに直接お会いしたのはもう25年以上前、現代詩人会で行われた新川さんの講演を聞きにいったときのことだ。会場の後方に座っていた私を横でつつく人がいて、「ほら、今、八木さんのことを新川さんが話しているわよ」と教えてくれた。ウトウトしかけていた私はハッとして遠くのお顔を見たが、話の内容はわからない。その後に開かれた懇親会で初めて新川さんと対面した。

「あなたの詩集を読ませていただいて、失礼ながらおかしくて笑ったわ。詩で笑えるなんて面白いわねえ」

当時、公立中学校の英語教師をしていた私は、彼女の詩が国語教科書に掲載され、多くの女性に勇気を与えている詩人だと知ってはいたが、率直にいえば作品はあまり読んでいなかった。遅ればせながらこれを機会に作品を次々に読んでみた。観念的であることをそっとずらすことができる、実に巧みな、しかも自然な流れを感じさせる詩。といって物や事象につきすぎてもいない。

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新川さんは昭和58年に季刊詩誌「現代詩ラ・メール」を吉原幸子さんと創刊した。当時は男性詩人が戦後の打ちひしがれた苦境を歌う観念的な詩作が多く、「愛の賛歌」を歌う詩人はほとんどいなかった。ラ・メールからは若い女性詩人たちが何人も育った。新川さんらが男性優位の詩壇に風穴をあけた功績といえる。さながら明治期の与謝野鉄幹・晶子が起こした「明星」のムーブメントだった。

吉原さんの挑戦的な詩とは少し趣がちがい、新川さんの詩は日常生活からくみ取るやさしい視点や自然をおおらかに歌いとても魅力があった。

平成22年にみそ製造会社、ハナマルキが実施する「おかあさんの詩コンクール」の選者にさそわれた。入選作をまとめた「詩集おかあさん」のあとがきに、新川さんはこんなことを書いていた。

「詩は頭で考えてつくるものだと、考えられています。言葉を選んだりするのに、もちろん頭もなくては困りますが、それよりも先に、目や耳や鼻や舌や、肌がどう感じたか―が、大事なのです。詩は体ぜんたいで書くもので、その中心に<心>があります。ですから、言葉をわずかしか知らない幼稚園児でも、頭でっかちになった大人には書けない、すばらしい詩をつくることが、できるのです」

引用した言葉には子供だけでなく大人が詩を書くときのあるべき姿も示されており、この印象的な発言は選考後の雑談の中でもたびたび聞くことができた。また、戦中の日本の姿を振り返り、「過度の規律、直立不動、自由をしばるもの、硬直」にはとても警戒心をもたれ、ユーモアや笑いのある世界を大切にすべきだとよく話していた。