日常の割り切れなさが冒険に 川上弘美さん新刊『明日、晴れますように 続七夜物語』

AI要約

川上弘美さんの新刊『明日、晴れますように 続七夜物語』は、前作とは異なり、子供たちがいじめや第二次性徴と向き合う日常を描いた作品である。

物語は小学4年生のりらと絵の2人の視点から語られ、りらはいじめに遭いながらも生き物好きで数値化思考の持ち主、絵は母子家庭で自立心が芽生えつつも内向的な少女として描かれる。

ファンタジーよりも現実の問題に焦点を当て、現代の子供たちが直面する過酷な環境や情報過多、価値観の多様化について考察した作品である。

日常の割り切れなさが冒険に 川上弘美さん新刊『明日、晴れますように 続七夜物語』

「日常の中に割り切れないことがたくさんあって、それを書くこと自体が冒険だと思うんです」。作家の川上弘美さん(66)の新刊『明日、晴れますように 続七夜物語』(朝日新聞出版)は、平成24年に刊行した長編ファンタジーの続編だ。ただ、少年少女が異世界での冒険を繰り返した前作とは異なり、今作はその子供世代がいじめや第二次性徴と向き合う日常を描く。「現代のファンタジー」はより切実さを増している。

物語は小学4年の仄田りら、友人の鳴海絵(かい)の2人の視点から交互に語られていく。母親に「扱いの難しい子ども」と言われる生き物好きのりらは、会話の途中で虫の観察に夢中になることもしばしば。良いことと悪いことを数値化して考える癖があり、「むかつく」「やばい」といった言葉をうまく使えないため、クラスの女の子たちの反感を買って悪口を言われている。

「りらは一番自分に近いキャラクター。私も生き物全般に興味があって、変なことにこだわるところがあった」。川上さん自身も小学4年生の頃にいじめを受けて不登校になり、転校した経験があるという。「現代のように陰湿ないじめではなかったけど、集団の中でマイノリティーとして扱われていたのがつらくて。その記憶はりらとつながっています」と明かす。

もう一人の語り手である絵は母子家庭で、毎週土曜日に母親のボーイフレンドが料理を作りに来ることに複雑な感情を抱く。電子辞書で調べて大人たちが使う難しい言葉の意味も知っているが、「一人でいること」が平気なりらに気後れしがちだ。りらがいじめられていることにうすうす気づきながらも、真剣に考えようとはしていない。

小説の大半は、第二次性徴を迎えたりらと絵が、それぞれの考えや違和感を自分の言葉で紡ごうとする内面の描写に費やされる。「私自身はぼんやり生きてきちゃったけど、今の子供たちは受け取る情報量が多くて過酷。お互いの距離感も敏感に考えなきゃならない。大変だけど、本当にすごいなと思う」

昭和の高度成長期が舞台だった前作の『七夜物語』では、子供たちが不思議な「夜の世界」を冒険するたびに現実の世界も変化するという設定で、二項対立的な価値観への疑問をテーマにしていた。平成の東日本大震災の前後の子供たちを描いた今作は「絶対的に正しい存在がない時代。ファンタジックな世界に行って問題を解決して、というのは違うと感じた」と、ファンタジー性を前面に押し出すことはやめたという。