金持ちの高齢者がなかなか幸せになれない理由…和田秀樹「幸せに死んでいく人」が共通して持っているもの

AI要約

医師の和田秀樹さんは、金持ちだからこそ不幸な出来事が起きやすいと説明しています。金持ちパラドックスとして、お金の影響で再婚したり老後の計画を立てたりすることが難しくなる例を挙げています。

財産目当ての再婚や老人ホームの入居において、子どもたちの言いなりになることが不幸を招く場合があると述べています。また、老後資金2000万円問題について、過剰に貯金する必要はないと主張しています。

人生の最終段階では、お金よりも使った経験や楽しい思い出が大切であり、老後にお金を貯めても使い道が限られることを述べています。

幸せに人生を終えるにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「お金は持っていることより使うことのほうに価値がある。死ぬまで金を貯め続けるなんてバカげたことはない。ベッドの上で過ごす日が多くなる人生の最終段階で、心の支えとなってくれるのは、『あのときは楽しかったな』という思い出である」という――。

 ※本稿は、和田秀樹『どうせ死ぬんだから』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■再婚したくてもできない「金持ちパラドックス」

 私は「金持ちパラドックス(逆説)」と呼んでいるのですが、金持ちであるがゆえに不幸な出来事が起きやすいものです。

 たとえば高齢になって妻に先立たれた男性が、近所の小料理屋の女将と仲良くなって「結婚しようと思う」と話したとき、財産がない家であれば、子どもたちは、「お父さん、良かったじゃない。幸せになってね」と言ってくれる。

 考えようによっては、その女性に介護を押しつけることもできるわけですから。金がなければ、誰も反対しないでしょう。

 しかし、家を売ったら2億円になるとか、たっぷり貯金があるとかという場合は、「財産目当てに決まってるじゃないか!そんな女と結婚するなんて僕たちは許さないよ」などと言われて結婚させてもらえない。

 日本の高齢者は気が弱いから、子どもに嫌われたくなくてあきらめるケースが多い。それこそ「嫌われる勇気」を持ったほうがいいと思います。

 だって、財産のために親の再婚を反対するような子どもが、先々ちゃんと介護してくれる確率は決して高くないですから。

 財産目当てだと思われている女性も、途中で離婚したら財産はもらえなくなるわけですから、たとえ財産目当てであっても、自分の介護はしてくれるという保証はあるでしょう。

■子どもたちの言いなりに陥ると不幸になる

 財産目当てでもいいから、女の人が一緒に暮らそうと言ってくれるのであれば、これまで稼いで貯めてきた甲斐があるじゃないですか。

 ところが息子や娘に反対されて再婚をあきらめてしまったら、独り身のまま寂しい日々を過ごし、介護が必要になったときに子どももあてにならない。

 これもよくある話ですが、金持ちが家を売って高級老人ホームに入るという話になったとき、反対する子どもが多い。

 有料老人ホームというのは、原則的には所有権ではなく利用権しかありません。

 そうすると、5億円の老人ホームを買っても、だいたい10年償還のところが多いから、10年経ったら財産価値がゼロになって、相続できる遺産が5億円減ってしまうわけです。だから、子どもたちが反対する場合が結構あります。

 というように、財産を持っていたところで、子どもたちの言いなりになっている限りにおいては、よけい不幸になってしまうことがよくあるわけです。

■老後資金2000万円貯めなくても大丈夫

 本書では、高齢になったら医療に対する考え方を変えようと提言していますが、お金についてもマインドリセットする必要があります。

 日本人は昔から、稼いだ金を好きなことに使うより貯金に回すことが正しいと思っているところがあります。

 そこへ2019年に金融庁が「老後2000万円問題」を公表し、老後資金に2000万円貯めていないと晩年にお金が足りなくなるといわれて、いよいよ貯金に走っているわけですが、ケチケチして貯める必要はないと思います。

 まず、この2000万円問題は、2017年の高齢夫婦無職世帯の平均収入から平均支出を差し引くと毎月5.5万円赤字になるというケースを取り上げて、30年間で総額2000万円が不足するとされた。

 しかし、これはあくまで17年の平均値から算出した額であって、すべての人に当てはまるとは言えない。30年という年数についても、かなり寿命を長く設定しているため、多くの人に当てはまらないと思います。

 実は、老年医学を長い間やっていて気がついたことなのですが、ヨボヨボになるか、寝たきりになる、あるいは認知症がひどくなると、人間は意外とお金を使わないのです。

 家のローンも払い終わって、子どもの教育費もかからなくなったので、経済的に余裕ができる。

 ところが、認知症が進んだり寝たきりになったりしたら、旅行に行ったり高級レストランで食事をしたりする機会は、まずないと言っていい。