地下鉄に飛び込んでしまいそうに…うつに悩んだ経済学者が語る「死にたくなる」体験

AI要約

令和5年版自殺対策白書によると、自死者の中で最も多い原因は健康問題であり、うつも含まれることが示されている。

経済学者の浜田宏一さんは躁うつ病を経験し、息子の自死にも直面した。彼の著書では、うつという病気についての正しい知識や経済、ジェンダーについて考えさせられる。

浜田さんは自身が希死念慮に取りつかれた経験を振り返り、その時の心境や家族のサポートについて語っている。

地下鉄に飛び込んでしまいそうに…うつに悩んだ経済学者が語る「死にたくなる」体験

「令和5年版自殺対策白書」によると、令和4年に自死を選んだ方の数は2万1881人で、3年連続増加している。そのうち原因や動悸が特定されている方は1万9164名いる。自死には多様で複合的な原因や背景があるが、中でも一番多いのが1万2774人、45%を超える「健康問題」だという。ここにはうつも含まれるのだろう。

そして、「うつ」は誰でもなりうる病気だ。

経済学者で東京大学に所属後、イエール大学にて教鞭をとり、内閣官房参与として招聘されてアベノミクスを支えた――そんな華々しい経歴の持ち主である経済学者の浜田宏一さんは50歳を超えて躁うつ病に襲われ、精神病院への通院や投薬、入院を体験した。また、うつと思われた息子の自死にも直面している。

浜田さんがうつの経験を中心に、自身の仕事の話、家族の話など小児精神科医の内田舞さんを聞き手に語った書籍が『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(文春新書)だ。内田さんは30年らい浜田さんの主治医をつとめているマイケル・ボルマー医師とも話をしたうえで、この対話に向かった。

この一冊からは、うつというのが誰でもなりうる病気であるかをはじめとした、うつに対する正しい知識を得られるとともに、経済やジェンダーについてのことも考えさせられる。

本書より抜粋紹介する1回目は、浜田さんが躁うつ病と長く闘ったその渦中に、息子の広太郎さんを自死の形で失ったそのつらい体験をお伝えした。

第2回は、ご自身が「希死念慮」に取りつかれたときのエピソードをご紹介する。

内田入院される前のお話を伺いたいなと思います。希死念慮を抱かれる頻度がどんどん増えていったということですが、希死念慮がどんなものなのか、実際に死にたいと思われたときにどんなことを考えられていたのか教えていただけないでしょうか。

浜田私はこのころの思いを振り返る際に「自殺妄想」という言葉を使っていたのですが、いまでは「希死念慮」という表現が「自殺妄想」という言葉よりも使われるんですね。「自殺妄想」というと、いろいろ非現実的なことを考えているようにとられるので「希死念慮」という言葉に取って代わられつつあるのでしょう。

現状の認識などには幻聴や幻視などもなく、どうしたら死ねるかについても妄想はない。しかし自分は生きていられないという考えが絶えずおこってくる。それから、これは重要ですが、そのような思いを抱いていても誰かに救ってもらいたいとも願っているのが、おそらく希死念慮にとらわれた人々の気持ちではないでしょうか。

さて当時の話に戻りますと、幸いにして自殺の本格的な試みはなかったのですが、家内と道を歩いているときに綱があるとそれにすがって一種のシミュレーションの仕草をしたことはありました。希死念慮があることを周囲に知らせようとしたこともあったように思います。とにかく自殺したいという心がどこかに絶えずあって、しかしただ死にたいという考えだけでなく、その状態から救ってくれる人のあらわれることを実は願ってもいる複雑な状態でした。

いずれにせよ、希死念慮が強くなると、たとえば電源コードとか、浴室とか部屋にあるあらゆるものが凶器に見えてきて、抗うつ剤をたくさん飲んだらどうなるかなどと考えていました。その時は家内が、「それであなたが死ねればいいけれど、そうでなくて廃人になって生きながらえる可能性もあるのですよ」と言ってくれた。