後発のコミックサイト「ハヤコミ」勝算は? 海外小説の漫画化をアドバンテージに「アルジャーノンはぜひ漫画化したい」

AI要約

早川書房が電子コミックサイト「ハヤコミ」を開設し、海外小説のコミカライズに力を入れることを発表した。

同社はSF名作『ソラリス』やアガサ・クリスティー作品の漫画化を行うなど、ファンに特に喜ばれる取り組みを展開している。

コアファンもコミックファンも満足できる作品作りを目指し、原作に忠実なアプローチを重視している。

後発のコミックサイト「ハヤコミ」勝算は? 海外小説の漫画化をアドバンテージに「アルジャーノンはぜひ漫画化したい」

 先ごろ、早川書房よりコミックサイト「ハヤコミ」 の開設が発表された。電子コミック市場としての拡大は約束されてはいるものの、如何せん、“後発”の感が否めないのも事実。だが、同社は他の出版社には出来ない、珠玉の海外小説をコミカライズしていくという、文字通りの“奥の手”を使ってきた。第一弾として、20世紀最高のSF作品『ソラリス』と、ご存じアガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』の漫画化を敢行することからも、その本気度が伺える。同社の事業本部/編集企画室・山口晶氏に話を聞いた。

――7月23日より、コミックサイト「ハヤコミ」 をオープンしました。改めてコミックサイト開設の意図と経緯をお聞かせください。

【山口晶】小説のコミカライズに関しては、4年ほど前から少しずつ動き出していました。来年80周年を迎える早川書房には、名作と呼ばれる小説がたくさんある。そのコミカライズ版をどう世に出すべきか? やはりコミック読者の消費傾向を考えると、WEB上で連載として進めるのがベストという具体的な指針が決まったのが昨年。いきなり紙版や電子版コミックとして展開するのではなく、やはり連載を読んでもらってSNSで話題化していった方が良いという結論に至りました。

――早川書房さんと言えば、“洋書”が強いイメージを大半の方が想起するはずです。SFの金字塔『2001年宇宙の旅』(アーサー・C・クラーク)から、日本でも特に人気の高い『アルジャーノンに花束を』など、多数の名作を抱えています。一方で小説のコアファンになるほど、メディアミックスについて難色を示す方も一定数は存在するものです。コアファンをも取り込むためにどのような指針を設けられたのでしょう?

【山口晶】大昔は、そういったコアファンがライト層を怖がらせたり、時にマウンティングしたりという時代もあったとは思うのですが、今はそういうマインドのコアファンは極端に少ないと思います。むしろ、SFやミステリの魅力をもっと知って欲しいというファンがほどんどです。ですから、今回の「ハヤコミ」開設の発表をした際も、SF、ミステリのファンのみなさんからも好意的な声が多かったです。1番多かったのは、「〇〇を漫画にしてほしい!」っていうリクエストですね。それもかなりの数がきています。

――確かに、日本における名作と呼ばれるSF映像作品の下地、ルーツとなった小説を正当な流れでコミカライズしたら、どのような作品になるのか? むしろ、コアファンの方が今回の発表で胸が躍りますね。第一弾の発表として『ソラリス』(1961年発表、20世紀のSFを代表する作品のひとつ)のコミカライズを発表したことからも、その本気度をくみ取ったファンも多いでしょう。

【山口晶】そういった熱量の高い方にも満足できるようなマンガ作りを行っています。原作小説の担当編集もコミック版を細かくチェックして、原作の精神をしっかりと移植できるよう徹底的に話し合っています。

――因みにメディアミックスを行う際、原作に忠実なアプローチと、オリジナルの要素を入れ込んだアプローチの2パターンがありますが、基本的にはどちらを尊重していますか?

【山口晶】基本的には原作に忠実な形で進めることを前提にしています。漫画版を読んだ読者が原作の基本的なストーリーをきちんと追えることが重要だと考えています。また、今回の「ハヤコミ」開設の狙いの1つとして、海外への版権販売という点がかなり大きなウエイトを占めていますので、海外の原作ファンも納得させないといけない。

――文字ではなく画で表現するからこそ、原作に忠実であるべきだと。

【山口晶】おっしゃる通りです。例えば、物語における重要な手がかりの提示の仕方も文字と画では異なります。バレない程度の伏線として画で表現する…そういった脚色は必要な場合もありますが、そこは最低限にして原作通りにというのが基本路線となります。