結城真一郎「自作はショート動画」Z世代の「ミステリーは後ろから読む」対策は本気で模索中だと語る、彼の工夫とは〈インタビュー〉

AI要約

作家・結城真一郎さんが待望の新刊『難問の多い料理店』について語る。

連作短編の物語の着想や登場人物のヒントについて明かす。

結城さんの人間観察能力や作品の面白さについてのエピソードが明かされる。

結城真一郎「自作はショート動画」Z世代の「ミステリーは後ろから読む」対策は本気で模索中だと語る、彼の工夫とは〈インタビュー〉

日常に潜む奇妙な謎を鮮やかに描いた『#真相をお話しします』(新潮社)で大ブレイクした作家・結城真一郎さん。このほど2年ぶりとなる待望の新刊『難問の多い料理店』(集英社)は、六本木のとあるレストランが舞台だ。店に夜な夜な舞い込むのは、料理の注文に見せかけたオーナーシェフへの事件解決の依頼。不自然な焼死体が出たアパート火災、空室に届き続ける置き配、謎の言葉を残して捕まった空き巣犯、なぜか指が二本欠損した状態の轢死体……日常のようで非日常な面白さが止まらない。こんな摩訶不思議な本格ミステリーはどうやって生まれたのか? 結城さんに話をきいた。

――新刊は連作短編ですが、物語はどのように着想されたのですか?

結城真一郎さん(以下、結城):「現代みのある連作短編」というオーダーに対して、まずは何を題材にするかを考えるところからですね。そこで思いついたのがUber Eats的な配達員で、あるお店にいろんな人が出入りする形なら連作になりそうだと。それをどう掘り下げるかを考えたとき、「ゴーストレストラン」という新業態(店内飲食なしで、デリバリーで料理を提供するレストラン)があると知って「これはいける!」と。実際、配達員の方はそれぞれいろんな事情を抱えていらっしゃることもわかってきて、ならばこの舞台を最大に活かすためにもいろんな人物を出そうとこの形になりました。

――それぞれの人物がリアルですが、ヒントはあった?

結城:実際、Uber Eatsの配達員をやっている方の体験記をブログや日記で読み漁って、こういう事情を抱えた方が多いというのが見えてきたところで、中でもオーソドックスなパターンを選んで登場人物にしていった感じです。

――人物のパターン化は人間観察が得意じゃないと簡単ではないような。日頃から人間観察はされるほうですか?

結城:どうなんですかね。特に意識はしていないのですが、結果的にはいろいろ見えてくるものがあるので、知らず知らずのうちに観察しているのかもしれないですね。

――それは昔から?

結城:そうですね、「アイツ、こういうやつだよね」みたいに言語化するのは得意でした。中学の卒業文集で友人たちを登場人物にした「校内で殺し合いをする」っていう『バトルロワイヤル』のパロディを600枚書いたんですが、それをみんながすごく楽しんでくれたのも、「アイツはこういう動きするよな」と思って書いたことが、すごく当たっていたからだと思います。

――作家になった原点ともいわれる開成中学時代の印象的なエピソードですね。今回の連作短編も骨格ができてしまえば、同じように「こういう人はこう動く」と膨らませていけたのでしょうか?

結城:はい。「こういう人はここでこういう言葉遣いだろうな」とか、「こういう反応するだろうな」とか、あくまで想像にすぎませんが、実際の友達と照らしあわせたり、その人物になりきったりして割と自然にわかる感じですね。

――そういうのはできる人とできない人がいるような…。子どもの頃からできたんですか?

結城:そうだと思います。例えば、今だと怒られちゃいますが、中学生の頃に女の子のふりをして男友達になりすましメールをしたことがあったんですね。「あの子かわいいよね」ってその男友達が言っていたんで、その女の子とメルアドを交換するっていう流れに見せかけて、実際には僕のアドレスを紹介して。「相手がこう書いてきたら、女の子ならこう反応するのが自然だろう」とか、「こう書いたらアイツはこう反応するだろう」とか考えながら、いわゆる「ネカマ」的な感じでやり取りしていたんですが、それがすごく周りにウケたんですよね。つまり核心をついていたわけで、その頃から「あの人はこう動く」とか、「ああすればこういう反応がくる」とか、そういう感度は高かったと思います。

――そういうのはやっぱり「人間観察」のなせる業のような…。

結城:観察したというより、小さい頃から人を笑わせるのが好きだったんですよね。僕はひとりっ子だったんで、さみしいからなるべく外で誰かと遊んでいたかったんですが、そのためにはどうにかしてみんなをひきつける必要があって。顔色を窺うようでなんですが、それで「どう対応したらどういう反応が返ってくるか」みたいなことを小っちゃい頃からすごく考えていたし、目の前のこいつをどうやって笑わしたろうか、どういうことをやったらウケるかをいつも考えていたんです。

――今回の連作短編もそうですが、結城さんの作品では一度オチがついたかと思うと、さらにそれがひっくり返る面白さがありますね。

結城:それも「いかに人を面白がらせられるか、意表をつけるか」みたいな感覚の延長だと思います。「ここまではわかるよね、でも、もう一個あったらどうかな?」という挑戦状みたいな感じというか、そういうのをしのばせるのが昔から好きでしたから。

――頭のいい同級生の意表をつくというのは、それなりに歯ごたえがあったのでは?

結城:そうですね。それは間違いないと思います。先ほどのなりすましメールのときも、僕のアドレスだとバレないようにかなり複雑な建て付けにしたり、あえてジェラシーを煽るような設定を作ったり…普通のなりすましではなく、そこにいろんな事情を織り交ぜることで、目くらましをしつつ、より積極的でリアルなやり取りになるように場を整えることにめちゃくちゃ頭を使っていましたね。最後は彼がフラれて終わったんですけど、ネタばらしをしたら「じゃあ、俺がホントにフラれたんじゃないんだ。まだチャンスあるじゃん!」ってすごく前向きで。その前向きなキャラはいつか作中に登場させたいと思います(笑)。