「90万円支払わないと納骨できません」…戒名がダブルネームになりかけた、父親が死んでつける”戒名”のルールに絶句

AI要約

親父が移住先の会津若松で亡くなり、葬儀や遺品整理を行った後、納骨先について悩む主人公。

我妻家の菩提寺となる東京のお寺に親父を納骨することには宗派や戒名の違いから難色があることが明らかになる。

最終的には会津若松市での納骨を選択することに決め、親父の戒名が破棄されるという複雑な結末。

「90万円支払わないと納骨できません」…戒名がダブルネームになりかけた、父親が死んでつける”戒名”のルールに絶句

親父が移住先の会津若松で亡くなった。70歳だった。重度の脳梗塞だと医師から告げられた。

葬儀が終わり、遺品整理などを済ませていく。最後に納骨はどうするか、ということになり、2つの選択肢が与えられた。

一つは、会津若松市の「期限付納骨壇」か「永年合葬室」に納骨するという判断。もう一つが、東京の台東区にある我妻家の墓、日蓮宗の寺に収めること。

生前、(私の)祖父と仲の悪かった親父は、「一緒の墓に入れなくていい」と言っていた。どちらにも納めるだけの理由がある。考えあぐねた私は、友人である真言宗の坊さん(Nさん)に電話で相談することにした。

すると、「我妻さん、そもそもの話なのですが、台東区にあるお寺の墓には納骨できないと思います。というのも、そのお寺は日蓮宗なんですよね。対して、お父様の戒名は、曹洞宗のお坊さんが授けています。宗派が違うことに加え、そのお寺は我妻家の菩提寺です。おそらくですが、菩提寺が改めて戒名を授けることで、はじめてお墓に入れると思います」と驚く話を聞くことになった。

曹洞宗と日蓮宗の戒名をそれぞれ持つ? 親父の戒名がダブルネームになるってこと? どういうこと?

「話を聞く限り、我妻さんのおじいさまが、全国に5万件以上あるお寺から、その台東区のお寺を選び、我妻家の菩提寺としたんですね。菩提寺の僧侶は、我妻さんのご家族が亡くなった際に葬儀を執り行い、読経や説法を担当します。そして戒名を授ける役割も持ちます。今の戒名のままでは納骨できないと思います 。申し上げにくいんですが、こういった状況を作ったのは、おじいさま……なんですね」

やってくれたな――と思った。じいさんは、私が小学校5年生のときに亡くなっているから、思い返せる記憶はわずかしかない。ただ、その散らばった記憶の断片をつなぎ合わせると、「熱狂的ジャイアンツファンで、試合に負けるたびに怒鳴り散らす」とか、「やたらと家父長的でばあさんに高圧的だった」とか、ろくでもない思い出にしかならない。東京教育大学(のちの筑波大学)で地学や鉱石の研究をしていた人らしく、死んだ親父は「じいさんは権威的なものを好む性格だった」と話していた。

親父の死後、もろもろの整理をするため、じいさんの改製原戸籍謄本を取り寄せなければいけなくなった。そこに記された我妻家の家系をたどると、じいさんには兄弟もいれば、叔父や叔母にあたる人もたくさんいることが分かった。

おそらく本流の我妻家の墓は別途あるのだろう。それにもかかわらず、あえて自分の代から新しく墓を建立、しかも東京の立派な寺を選ぶのだから、「権威的なものを好む性格だった」の意を得たり。

Nさんから、「とにもかくにも、一度、台東区の菩提寺に行ってみてください」と伝えられた私は、数日後、社務所へと赴いた。突然の死だったこと、会津若松で葬儀を行ったこと、親友の僧侶が戒名をつけてくれたこと、過日の経緯を伝え、仮に我妻家の墓に納骨をする場合はどうなるのかと尋ねた。

答えは、Nさんの予想通りだった。菩提寺が戒名を付けなければ入ることは叶わない。

この時点で私の気持ちは、会津若松市の「期限付納骨壇」か「永年合葬室」に納骨するという選択に大きく傾いた。聞けば、菩提寺の戒名が正当となるため、会津で授けられた親父の人となりを表すお気に入りの戒名は、破棄という形になるという。ダブルネームどころか、「幻の戒名」の爆誕である。