「行政のミス」をしつこく批判する人たちが気づいていない「委託仕事」という日本の問題点

AI要約

役所や学校の外注に関する記事。外注を行う理由やリスクについて解説。

外注業者によるミスや不祥事が報道されることもあるが、外注が効率的な理由。

役所が外注を選択するメリットとデメリットについて考察。

「行政のミス」をしつこく批判する人たちが気づいていない「委託仕事」という日本の問題点

今年6月、千葉県印西市で、宛名に「様」を印字し忘れた約1万9千通の納税通知書を発送してしまい、市がおわびしたというニュースが報道された。

一方、名古屋市では、今年4月以降、市立小学校の部活動に指導者が来ない、研修を受けていない人が来るなどといった保護者からの苦情が殺到しているというニュースが流れた。

さらに遡った今年3月には、川崎市で、小学校の卒業証書の筆耕(毛筆で書くこと)のために用意された卒業生名簿を紛失した(後に発見)という報道もなされ、話題を呼んだ。

こうした話題に触れた読者諸氏とすれば、「ああ、また役所や学校の不祥事か」と思ったかもしれない。確かにその通りなのだが、厳密に言うと少し違う。

「様」をつけ忘れたり、部活の指導に来るはずだったり、名簿を使って証書に文字を書くことになっていたのは、役所や学校の職員ではなく、委託先である民間企業などのスタッフだったのだ。

毎年毎年、何千億円もの公費を投入し、国や全国各地の地方自治体の名義で実施されている様々な事業。実は、今やそのうちのかなりの部分は、役所の公務員が自ら汗をかいて直接物事を処理しているわけではなく、企業や各種団体などにお金を払い、仕様に定められた内容の仕事を、役所の代わりに実施してもらう「外注」になっている。

一例をあげよう。ある地方自治体が、住民の意見を行政施策に反映させるために住民アンケートを実施しようと考えたとする。そこで必要な作業を簡単に羅列すると、(1)アンケートの送付先の抽出(役所が保有する住民基本台帳データベースからの抽出、ラベルシールへの印刷)、(2)依頼状と調査票(アンケート設問と回答選択肢)の原稿作成、(3)送付書類一式の印刷、封筒への封入、宛名ラベル貼り、(4)投函、(5)返送されてきた封筒の回収、返信用封筒の別納郵便代の支払い、(6)回答結果のデータ入力・集計、(7)報告書の作成といったことが考えられる。

このうち、(1)~(2)などは役所内で職員が直接行うが、それ以降の段階は委託業者にバトンタッチしてやってもらうことが今や常識である。もっとも、外注することで、役所が持っている個人情報を民間業者に渡すことなるため、その取扱いなどでリスク要因は増えることは間違いない。それでもなぜ、役所は外注を行うのだろうか。

役所というのは、年間を通じて、様々な仕事を様々な時期に行っている。そうした仕事を外注せずに役所の職員でこなそうとすること(「直営」という)も、その気になればできるかもしれない。

しかし、役所にとっては、たとえその時々で必要な業務であろうとも、年1回、いや数年に1回程度しかやらないような「慣れていない」ものもある。それならば、職員自身が自分の時間と労力を費やしてやるよりも、「餅は餅屋」で、普段から反復して業務を行っている専門業者に任せた方が、そつなくこなしてくれるし、なにより効率がいい。